岩手県立農業試験場研究報告 第16号(昭和47年3月発行)
ソルガム・スーダングラス・ハイブリッドの北東北への導入に関する研究
米田秋作・古沢典夫・佐藤忠士・大野康雄・鎌田信昭
本試験は昭和42年に開始し、昭和44年までに一応完結したもので、従来寒冷地とくに北東北では栽培されていなかった本作物についての試験を行ない、以下のような結果を得た。
- 再生力が強く、多けつ・多収・耐病性大で反復刈り取りができ、機械化適応性の高い作物である。
- 利用型は主なもの5つの型にわけられる。
ア)サイレージ利用型。イ)牧草型(生草利用)。ウ)アとイの折衷型。エ)晩播サイレージ型。オ)その他(豆科との混播型、冬作物跡地作付型)。 - 温度反応に敏感な作物で、播種期~穂孕み期または出穂期間の平均気温と日数の相関が高い。(穂孕み期 r=0.963、出穂期 r=0.956)。すなわち、平均気温が高いほど穂孕み期・出穂期は早まる。また、播種期~穂孕み期間の積算気温は1,550℃±50℃、播種期~出穂期間の積算気温は1,750℃±50℃の範囲であった。2番刈りは1番刈り後~穂孕み期間まで1,100~1,200℃を要した。
- 播種期の早限は平均気温13~15℃時で、トウモロコシ播種早限後10~15日に当り、以後早播ほど多収であった。また、多収限界は6月15日までで、以後の播種期では減収が著しかった。
- 播種量は播種期と施肥量によって影響を受け、早播では播種量4.5kgで多肥なほど、晩播では播種量が多い区(6kg/10アール)が多収を示した。
- 散播が条播よりやや多収であるが、除草・播種労力や収穫労力を考慮すれば条播が有利な場合も多いと思われた。
- 刈り取り時期および回数としては、穂孕み期を刈り取り時期としたときは、2回刈りができる。また草丈50cmほどの刈り取り時期では4回刈りができるが低収である。草丈1メートルの刈り取り時期では3回刈り、草丈1.5メートル以後出穂期までは2回刈りが限度であった。
- 刈り取りの高さは、穂孕み期に刈り取るサイレージ利用型では低刈り(地際-5cm)が適度な刈り高で、生殖生長転換前の若刈りの牧草型では高刈り15~20cmが多収で、適当な刈高であった。
- 本作物の多収性と再生力の特性を最高に発揮せしめるのは、穂孕み期の2回刈りであって、エンシレージ用として利用されることになる。しかし、より少収ではあるが若草の多回刈りもそれなりに有利であって、夏枯れ期などに大いに活用されてよいものと思われる。
農山村地帯の地域農業計画に関する研究
長岡正道・佐藤宏三・照井隆一・中野信夫
- 本県の農山村地帯は農畜林産物の供給基地として今後の発展が期待されている。この地帯の農業構造は最近労働力流出を中心に大きな変化を示しており、個別経営においては生産力低滞、地域的には山地の粗放利用となってあらわれ、広大な農業資源の遊休化を招来する恐れさえ生じてきた。
- 農山村地帯におけるかような土地の遊休粗放化の原因は、小中農の労働力流出による農用地の粗放利用と、大農の労働力不足による粗放利用の相乗結果である。それは個別経営の利害のみが優先し、全体と個別との土地利用調整がはかられなかったことによるものと考えられる。
- したがって、今日低位利用土地資源を農畜林業的に開発し、所在農民を経済的自立化せしめることが極めて重要である。このような見地から地域的に所有する土地資源の活用をはかるための合理的土地利用計画策定が必要となる。
- 土地利用計画に示された土地利用に現状農家群誘導するために必要な生産施設配置と投資のあり方も同時にとりあげられなければならない。これらの課題について検討することは、現在進められている農業振興地域整備でとりあげている事業の適正な実施とも密接な関連をもっている。
- また、計画策定方法は県および町村関係担当者が現地で通用できる簡易さが狙いではあるが、このような方法で策定した計画結果についての斉合性が実用面からも検討されなければならない。
- 地域農業計画には二つの方法がある。一つは個別経営の土地所有を前提とし経営の枠内で土地利用高度化をはかり、地域の類型別戸数を乗じて地域全体の計画とする場合である。これに対して個別土地所有の枠を外した地域全体をひとつの経営体とみなした計画がある。
- この研究では二つの計画方法を適用して土地利用計画を策定し、その結果から地域所得の可能性を推定した。そのために前もって地域内で農畜林業に利用可能な土地資源量を把握しなければならない。
- 現地における土地利用調査、耕草地の土壌調査、林野の適地適木調査と既存資料等から耕地、草林地、放牧地、不適地に分類した。しかし耕地については調査の結果新たに耕地として利用できる可能性が極めて少ないことを知った。そこで土地利用区分は草地、林地、放牧地を対象に行ないその資源量を推定した。
- これらの土地を生産に利用するに当り、収量水準、栽培作期、地域内のゆい作業慣行による労働力移動範囲などから、対象地城を大川地区と釜津田地区の二地区に区分した。
- 区分したそれぞれの地区ごとに現行の生産技術係数をつくり、地区内労働量の把握と生産物修正価格を定めた。これらを用いて単体表を作成し、線型計画法による所得最大を目的とした試算を行ない、そのときの土地利用を求めた。単体表演算はすべて計算センターに依頼し電子計算機を使用した。
- 土地利用計画は地域全体を一つの経営体とみなし、経営の枠をこえて土地利用をはかった計画を目標計画とした。計画は二地区間に労働力移動が可能で国有林地を利用対象に考慮した計画1、同じく国有地(林)利用を除いた計画2、労働力移動を地区内に止め、地区ごとに土地利用をはかった計画3の三段階とした。
- これに対して土地利用を個別土地所有枠内に止めて経営内で土地利用高度化をはかった場合の経営類型別試算を行ない、地区内類型別戸数を乗じて地域全体を集計して農家生産計画を作成した。
- 目標計画と生産計画における地域所得を現況土地利用の地域所得を100として対比すれば、目標計画1 129%、計画2 123%、農家生産計画110%となり、計画3と生産計画では土地利用の内容からみても実現性の強いものと考えられる。
- 現行技術のもとで計画策定方法について現況と対比して斉合性を検討した結果は以上のとおりであったので、計画年次昭和50年の労働力、農家戸数を推定したのち目標計画と生産計画の代替案を作成した。この場合生産技術には地区の先進技術を盛り込んで技術係数を補正した。
- 目標計画で労働力10.5%減少、子牛価格現行水準とした場合の地域所得は現況の137%、また同じ労働力条件で子牛価格が20%低下したときの地域所得は132%まで高めうる。農家生産計画で現行子牛価格の場合は現況に対する改善効果が120%、地域所得151,076千円、1戸当り平均所得497,502円となる。
- この生産計画に必要な草地基盤造成、家畜、建物施設整備など構造改善事業を含む総投資額は95,943千円で、そのうち過去における当地区の経営に対する投資実態から33.1%が自己資本による投資可能な割合と推定された。
- 以上のような一連の計画策定手順にしたがって策定した生産計画類型農家を地区の農業構造改善計画目標に示している個別経営設計と対比すれば、土地利用形態、生産物量、農林業所得の面でかなりの類似点が多い。したがってこの手順にもとづいて地域計画の目標を具体的に示すことが可能な一つの方法たりうるのではないかと考えられた。
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