岩手県立農業試験場研究報告 第1号(昭和33年3月発行)

ページ番号2004877  更新日 令和4年10月6日

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小麦赤銹病第一次伝染源に関する研究

渡部 茂

  1. 本報告は1951年より1957年まで実施した小麦赤銹病の第一次伝染源に関する調査結果をとりまとめ記載したものである。
  2. 本病の発生によって小麦の生育並びに収量に著しい影響がみられる。すなわち薬剤散布によって本病の発生を防止した区と無散布区を比較した場合、散布区で稈重反当39〆、子実容量反当6斗、子実重量反当20〆の増収が得られた。収量指数は散布区100に対し、無散布区86となり、14%の増収であった。更に子実千粒重、穂数等の増加も認められた。
  3. 本病の春季の蔓延開始時期は例年大差がなく、盛岡市、北上市とも5月中旬頃よりみられるが、その後の増加の速度には年次により顕著な差がみられる。
  4. この場合圃場での初期の蔓延の状況をみると、病株の隣接株から感染がみられ、順次これより同心円状に拡大して行くことが認められる。
  5. 本病の発生と関係のある気象因子について調べた処、日照量と相関々係のあることがわかった。特に成熟期の発生量と4月下旬~6月上旬の日照量に正の相関がみられる。またこの日照と菌の増殖の関係を接種試験により調査した結果、日光の照射のある場合には潜伏期間が短く、接種部位における夏胞子堆形成数が多く、更に1ケの夏胞子堆が大きい。日光遮断区でほこれらの点何れも劣っていた。
  6. 夏胞子の盛夏季における生存期間を調査し越夏の可否について検討した結果、生葉上では長期間生存し越夏が可能である。圃場でも生株があれば蔓延が行われる。刈取られた罹病葉上では約30日間の生存期間が認められ、越夏は不可能であった。また、寄主体より分離した場合も生存期間が20日間であって越夏は不可能であった。発生が多くなると小麦穂の外穎、芒上にも夏胞子堆の形成をみることがある。これ等の生存期間は低温乾燥貯蔵(5℃)で55日間の生存期間が認められたほか、室内放任、同遮光乾燥貯蔵の各区では10日間程度の生存日数であった。従って刈取られた場合にはこれ等の上での越夏も不可能とみられる。また、この羅病穂から発芽した幼苗にも発病がみられなかった。
  7. 葉鞘内面の表皮上に形成した夏胞子の生存日数も、葉鞘低温貯蔵の場合70日間の生存日数を示した外、室内放置、砂中埋没ともそれぞれ38日、7日間の生存日数であって越夏は不可能のようにみられた。
  8. 7~10月に圃場に小麦を播種し、自然環境下の発病状況を調査した結果、8、9月播種の場合発病率高く、7月、10月播種区は発病率が低かった。
  9. 夏~秋季のコボレ麦発生状況をみると、発生量が非常に多く、しかも罹病株数も多量にみられた。これ等の主な発生場所は小麦畑跡地、脱穀調製跡地、乾燥場跡地等が主であった。
  10. 岩手県の栽培麦における秋季の発病は広範にみられ、地域差はみられない。早播小麦に発生多く、晩播小麦には少ない傾向である。また、胞子採集器を用いて胞子飛散状況を調査した結果、秋季にも採集が可能である。しかしこの量は夏季の発生最盛期に比し著しく少量であった。
  11. 秋季の感染温度を知るために、健全株を病圃場に2~3日間曝露して後、一方を20℃の定温器に定置、他方を野外に放置して以後の発生状態を調査した。この結果曝露期間中の最高温度の平均がほぼ10℃を越している時に限って感染がみられる。この際の潜伏期間は20℃定置区は6~10日と短期間であるが、野外放置区は8~24日と長期間に亘っている。また野外放置区では感染が起ってもその後低温度のために夏胞子堆形成に至らないものもみられる。従って自然条件では晩秋の侯に外見上健全株とみられるものでも葉組織中に菌糸の型で潜伏しているものもあるとみられる。
  12. 夏胞子の越冬は、野外で生葉上にある場合と、罹病葉を採集して暖炉のない室内に貯蔵した場合に長期間生存し越冬が可能であったが、罹病葉を採集して暖炉のある室内、または野外に放置した場合は短命で越冬が不可能であった。
  13. 冬季に野外から罹病株を掘取って加温すると、掘取当時夏胞子堆形成のない葉でも加温処理3~4日後から新しい夏胞子堆の形成をみる。これは葉組織に菌糸で潜伏していたものが高温環境下におかれたために生長し夏胞子堆形成に至ったためとみられる。
  14. 耕種条件、すなわち、播種期、品種、施肥量等と秋季発生並びに越冬状況について調査した結果、秋季の発生は播種期の早いもの程多発し、また、品種による発病程度に顕著な差異がみられた。施肥量との関係は明瞭でなかった。秋季発生が多量であっても越冬後の調査では著しく減少しているが、これは秋季の罹病葉が越冬に際し雪腐病菌の寄生、寒害等により切損枯死が多いためとみられる。
  15. 秋季発生圃場と未発生圃場の翌年春季の発生状況は、秋季発生圃場では春季の蔓延が早く逆に春季の発生がおそい圃場は秋季の発生のない圃場とみられた。
  16. 秋季発生圃場にZineb剤を散布し本病防除を行うと、秋季の発生が少なく、引続き翌年4月下旬~5月上旬までは発生が少ない傾向を示すが、以後の蔓延期に入ると無散布区同様罹病程度が増加し、薬剤散布の影響はみられなくなる。
  17. 小麦の無栽培地であって栽培地帯から隔離している和賀郡湯田村並びに下閉伊郡船越村大島の2カ所に小麦を栽培し、小麦赤銹病の発生がみられるか否かを調査した。
  18. 和賀郡湯田村では夏季の発生がみられる。1953年5月11日小麦農林33号、同55号、同29号の3品種を播種し栽培したが、この中農林33号、同55号に発生した。この夏胞子の生態型群はRace group No.5.6.37の3型であってこれは何れも岩手県内に普通にみられるものであった。
  19. この地帯の秋季発生と夏胞子の越冬状況を調査するため、農林55号、新中長の2品種を1953年9月21日播種したが、両品種とも秋季発生がみられた。また秋季の罹病株は翌春の消雪直後も夏胞子堆の形成がみられた。このことから夏胞子の越冬は可能とみられる。この夏胞子生態型群はRace group No.6.11の2型であった。
  20. ナンブコムギ外9品種を栽培して夏季の発病状況並びに夏胞子の生態型群を調査したが、品種により被害度に顕著な差異がみられた。また、これ等の品種からRace group No.5.6.26.37が同定されたが、これ等の生態型群は岩手県内に普通にみられるものと同じであった。
  21. 湯田村におけるアキカラマツの自生数は多いが、銹胞子堆形成株は認められなかった。
  22. 下閉伊郡船越村大島における夏季の発生は多数みられ、また、秋季の発生も確認された。本島のアキカラマツ自生株は認められたが、銹胞子堆形成株はみられなかった。
  23. 本島で夏季発生した夏胞子の生態型群はRace group No.5.11であったが、これは何れも岩手県内で普通にみられるものであった。
  24. 1953~54年野外のアキカラマツ発病状況並びにこの上の銹胞子の小麦に対する寄生性を調査した。その結果発病株は極めて多数みられたほか1954年9~10月接種のものに小麦に発病を認めた。
  25. アキカラマツ上の病斑は晩秋季未熟病斑が多くみられる。この未熟病斑は小麦に対し寄生性をもたないようにみられた。
  26. 冬胞子を接種して生じた柄子器上を次々と毛筆でふれて滴子堆の混合を行ったところ銹胞子堆の形成がみられた。混合しない場合は全く銹胞子堆の形成がみられない。
  27. 野外のアキカラマツ上の銹胞子の生存期間を知るため病葉を10℃±1に貯蔵してその発芽をみたが、それによると病葉採集日から通算して15日まで認められた。
  28. 同じように室内放任の場合は20日まで認められた。
  29. アキカラマツの晩秋季における落葉枯死の時期は気象条件の相違によって異なるとみられるが、11月中旬であった。健全株も罹病棟と同様であった。
  30. 夏季冬胞子堆の形成した麦稈を用い9~10月にアキカラマツに懸垂して接種したところ、発病がみられた。麦稈は脱穀後長く野外に放置されて多湿の状態におかれたもの及び比較的乾燥状態におかれたものを用いたが何れも感染がみられた。
  31. 同様、野外放置麦稈を用い、これを堆積してその周囲にアキカラマツを栽植したが、12株中11株のアキカラマツに発病がみられた。これ等のことから夏季形成された冬胞子は年内に発芽してアキカラマツに感染することが確認された。
  32. この現象は青森、秋田、福島、長野、愛知、島根の各県産胞子についても確認することが出来た。

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