岩手県畜産試験場研究報告 第20号(平成4年3月発行)

ページ番号2004889  更新日 令和4年10月11日

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牧草の気象感応試験を利用した1番草の乾物収量予測

佐藤明子・佐藤勝郎・久根崎久二・山田和明

  1. 牧草の気象感応試験の蓄積データと早春の気象データを用いて1番草の乾物収量予測を試みたところ、畜産試験場(県中部)では積算期間の起算日がいつであっても積算最終日が5月10日の場合に推定精度が高かった。
  2. 4月中のデータで予測したときは、積算期間を4月5日~30日にした場合に推定精度が高かった(R2=0.806)。
  3. 県中部では1番草乾物収量と平均気温、最高気温で相関係数が大きいが、降水量とは小さかった。
  4. 県南部・県北部はデータの蓄積期間が短いことや試験区に反復がないこと、利用年次の違う草地の平均値であることなどが影響し、県中部よりは推定精度が低下した。
  5. 相関係数の大きさは県南部と県北部では異なり、乾物収量は県南部では最低気温との相関係数が大きく、県北部では最高気温との相関係数が大きかった。
  6. 県南部、県中部、県北部の3ヶ所のデータを一度に分析すると県中部単独より推定精度が低下し、現時点では岩手県内を一つの推定式で予測するのは困難と考えられた。
  7. 標高差のある草地での1番草乾物収量予測ではデータの蓄積期間が短かったにも関わらず精度の良い推定(R2=0.95)が可能であった。

蒸煮カラマツの給与が日本短角種の発育及び肉質に及ぼす影響

川村祥正・佐藤利博・熊谷光洋・田原誉利子・菅原好秋・沼尻洋一・和田一雄・大宮 元・吉田吉明・帷子剛資

 本県に豊富に存在する針葉樹のうちカラマツについて、イナワラ等の代替飼料としての利用可能性を検討するため、粗飼料源として蒸煮解繊処理したカラマツを日本短角種去勢肥育牛に長期間にわたり給与し、蒸煮解繊処理カラマツが発育、肉量、肉質などに及ぼす影響について検討した。給与粗飼料の種類によりカラマツ区、カラマツ・イナワラ区およびイナワラ区に分け、おおむね600kgになるまで肥育し、増体成績、飼料要求率、反芻行動、枝肉成績、赤肉割合、理化学的性状、疾病等について検討した。

  1. 増体成績
     肥育期間はカラマツ区450日間、カラマツ・イナワラ区430日間、イナワラ区421日間で、通算DGはそれぞれ0.82kg、0.85kg、0.88kgであり同程度の増体成績であった。終了時体重はカラマツ区611.3kg、カラマツ・イナワラ区603.8kg、イナワラ区616.8kgで差はない。
  2. 飼料摂取量および飼料要求量
     肥育期間に要した濃厚飼料の量はいずれの区もおおむね3.0トンで、粗飼料はそれぞれ蒸煮解繊処理カラマツ1.2トン、蒸煮解繊処理カラマツ0.6トンとイナワラ0.4トン、イナワラ0.8トンであった。カラマツ区とイナワラ区の間の飼料(TDN)要求率の有意な差は肥育前期だけみられ、他期間は平均値に差がなかった。通算のTDN要求率は、7.22kg、7.36kg、7.28kgでほぼ同程度の値となった。広葉樹の蒸煮処理飼料給与による肥育と比較するとどの区もTDN要求率が優れている。蒸煮解繊処理カラマツは給与量(給与TDNの5~10%)を適正に設定することにより十分利用が可能である。
  3. 反芻行動
     1回の反芻当り所要時間および再咀嚼回数はすべての肥育期でカラマツ区が多い。1吐出当り再咀嚼回数も同様にカラマツ区が多くイナワラ区と有意な差が認められた。従って蒸煮解繊カラマツ飼料は反芻胃から第三胃へ移行しにくい飼料と考えられる。
  4. 解体および枝肉成績
     第一胃・第二胃および第三胃の重量、第一胃筋層の厚さ、第一胃乳頭の長さおよび幅、第二胃筋層の厚さおよび第二胃稜の厚さにはカラマツ区とイナワラ区との間に差はなかったが、第二胃の稜の高さについてはカラマツ区が有意に低い値であった。牛脂肪交雑評価基準、牛肉色基準等による判定結果は各項目について試験区間に差は認めらなかった。しかし、一般農家の出荷牛の枝肉と比較すると、どの区の脂肪の色も白色化していた。
  5. 赤肉割合
     赤肉割合は個体のバラツキが大きく、試験区間に差は認められなかった。
  6. 肉の理化学的性状
     水分、粗蛋白質、粗脂肪および灰分の項目で各試験区間に有意差は認められず、蒸煮カラマツ飼料の給与による影響はないと考えられる。水分と粗脂肪含有率の間の相関係数は-0.98であり、粗脂肪含有率とBMS等級とは+0.94であった。
  7. 疾病および事故等
     屠殺時の内臓所見ではカラマツ区には異常による内臓廃棄は認められなかった。また第一胃、第二胃および第三胃の病理組織学的検査の結果でも、カラマツ区には異常が認められなかった。このことから蒸煮解繊処理したカラマツは内臓環境の面からもイナワラの代替飼料として十分に利用可能と考えられる。

 蒸煮処理カラマツは、エネルギーおよび蛋白質としての価値はほとんど期待できない。しかし、反芻を促進し、濃厚飼料の採食を維持するという意味においては、イナワラ等の代替粗繊維供給飼料として利用することが十分可能であり、給与量はTDN比で5~10%給与が適当であると考えられる。

蒸煮混合木質系飼料の馴致方法

川村祥正・大宮 元・帷子剛資

 木質系飼料は馴致に長期間を要するとする報告が多く、普及する上で大きな障害となっている。そこで、蒸煮処理した混合木質系飼料の簡易な馴致方法技術について検討した。

 その結果、蒸煮混合木質系飼料(35%)を配合飼料(55%)および大豆粕(10%)に混ぜて完全混合飼料として給与することにより、嗜好性が向上し14日間以内で必要養分量を摂取することが可能となった。この完全混合飼料は飼料調製も容易であり、また給与初期の増体停滞もみられず、木質系飼料の馴致方法として極めて有効な方法と考えられる。

 ただし、供試した日本短角種および黒毛和種はいずれも放牧育成した供試牛で、いわゆる粗飼料多給の前歴をもつものであり、濃厚飼料を多給方法により育成された牛については今後さらに検討する必要があると思われる。

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