岩手県畜産試験場研究報告 第15号(昭和62年3月発行)

ページ番号2004894  更新日 令和4年10月11日

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山地放牧飼養体系における黒毛和牛哺乳子牛の発育促進

笹村 正・山田和明・新渡戸友次・谷地 仁・及川稜郎・菅原休也・蛇沼恒夫

 山地放牧飼養体系における黒毛和種哺乳子牛の発育遅延が和牛繁殖経営拡大のネックとなっている。そこで、牧草放牧地及び野草放牧地の有効利用のための放牧基準及び牧区編成方式の検討を行うとともに、哺乳子牛の発育改善のための補助飼料の給与法について検討を行った。

  1. 1CD当たりの利用可能草量を163kgと118kgとした2つの区の実際の利用量はいずれも約55kgとなり差は生じないことが判明した。さらにこの時の母牛の体重は子付、子無しを問わず増加しており、その推移にも差は見られなかった。反面放牧圧を緩めると草地に利用ムラができ草地管理上問題が生じた。これらのことから、夏期放牧期間の黒毛和種成牛換算1頭当たりの必要面積は、10アール当たり3,500kg程度の収量の人工草地であれば、約30アールが目安になるものと判断された。
  2. 放牧期間を通じて平均牧区面積が5ヘクタールの放牧地に放牧した群と、同じく2ヘクタールの牧区に放牧した群の子牛の別飼飼料採食量には有意な差は見られなかった。さらにこの時の1CD当たりの利用面積はそれぞれ48アールと27アールとなり差があったが、子牛の発育には差は見られず、通常の範囲の放牧圧の差と、本試験における程度の牧区面積の大小は別飼いを行う条件下では子牛の成長に大きな影響は与えないものと判断された。
  3. 約60ヘクタールの林内野草地に約15ヘクタールに1ケ所の割合で設置した別飼施設の利用率を見ると季節により著しく変動するが、その合計採食量は小区画の人工草地に比較し遜色なく、水場や立場などの牛群の集合地付近に適宜別飼施設を配置することにより、良好な採食量が確保できるものと判断した。
  4. 子牛の別飼飼料採食量の経時変化を見ると、入牧直後に体重の0.2%程度であったものが、秋口には1.2%程度となり、過肥や牧草の利用低下を考慮すれば制限を必要とする。この様にして約140日の放牧期間に1頭当たり約80kgの濃厚飼料を採食した子牛群は、別飼いを行わなかった群に比較し有意に良い発育を示すとともに、体高は和牛登録協会の正常発育値の下限にほぼ達することが明らかになった。

日本短角種一貫生産体系整備モデル事業における成果と課題について

小野寺 勉・下 弘明・小松繁樹・笹村 正・沼尻洋一

 岩手県では、安くて、おいしい牛肉の通年供給を目指して、県、生産・流通団体、生協・量販店が一体となって、日本短角種一貫生産体系整備モデル事業を1982年8月からスタートさせ、1985年7月で一事業年の3年が経過した。本研究は、主として肥育技術の分野から、この事業の成果と課題について検討した。

1 出荷成績
 毎月30頭の出荷目標に対する達成率は100%であり、目標を達成した。出荷体重577kg、出荷月齢22.1カ月、枝肉歩留58.2%、正肉歩留り74.1%、背部皮下脂肪1.8cm等は平均値では目標に達した。しかし、出荷体重(変動係数7.6%)、出荷月齢(同13.7%)等はバラツキの大きいのが問題である。最も重要な精肉歩留りは84.6%であり、目標(85%)を若干下回ったが年々向上している傾向がみられた。一方、事業の規格物である“並の上”の割合は43%で低い値であり、枝肉単価は1,342円であった。

2 事業の成果

  1. 安代町、岩泉町、山形村のいずれも肥育頭数が大幅に増加し、地域一貫生産が定着した。従って、子牛販売時代に比較して付加価値は大幅に上昇した。
  2. 農協間に多少の違いがあったが、通年出荷が達成され、長い間日本短角種の欠点とされてきた出荷の端境期が解消された。
  3. 独自の規格を設け、基準価格を契約価格とし、市場価格から切り放す事ができ、枝肉価格の安定が実現できた。
  4. 肥育における粗飼料の利用が進み、日本短角種の特性を生かした肥育が行われつつある。この傾向は山形村において顕著であり、大部分の肥育農家で肥育前期にとうもろこしサイレージを給与しており、数戸の肥育農家が前期粗飼料多給型肥育モデルと同じような肥育を行っている。
  5. ロース芯を切断して枝肉規格を決定するため、素牛導入にあたって、産肉能力間接検定成績を参考にする等産肉性の改良に目覚めた。
  6. 消費者や流通関係者との交流会の開催、あるいは、情報のフィードバックにより、消費者の望んでいる牛肉を生産しなければならないという気運が肥育農家に芽生えて来た。

3 残された問題点

  1. 枝肉規格が脂肪交雑に重点をおいているため、ともすれば過肥にする傾向がみられ、厚脂の牛も多くみられ精肉歩留りを低下させる要因となった。
  2. 肥育農家と消費者・流通関係者とは交流会等の開催により、ある程度の一貫は為されたが肥育農家と繁殖農家とは市場で切り離され、肥育農家の情報が繁殖農家にフィードバックされなく、改良等に生かされていない。

放牧育成がその後の長期的子牛生産性に及ぼす影響

豊田吉隆・山田和明・吉川恵郷・笹村 正・小松繁樹

1 試験1 放牧哺乳雌子牛の発育水準とその後の子牛生産性
 子牛の長期生産性に大きな影響を与えるのは3産までの生産効率であり、十分高い相関ではないが、単回帰式では3産までの生産効率により、また重回帰式では1~3産子牛平均DG、平均分娩間隔、および初産月齢により日本短角種繁殖牛のその後の子牛生産能力がほぼ推定できる。なお、後継牛の選び方については、生後~離乳時のDGが0.6以上のものを残し、3産(4才)までの成績で再選抜する方法が妥当である。

2 試験2 放牧期の繁殖ステージと子牛生産性
 母牛の繁殖性は、春分娩と秋分娩で差はなかった。子牛の発育は繁殖ステージよりも飼養管理によって大きく影響を受ける。放牧と繁殖ステージを結びあわせて考えると母牛の受けるストレスは春分娩牛が秋分晩牛より大きい。

3 試験3 冬期飼養管理法の差異と放牧子牛の生産性

  1. 冬期の飼養管理形態の違いで、子牛の離乳時体重に差が生じ、ペンがルースバーンを上回った。また、舎飼期間の短い春産子より、それが長い秋産子の方がその差が大きかった。
  2. 管理形態の違いにより生じた子牛の発育差は、濃厚飼料採食量の差、採食時の競合の有無、及び運動量の多少によるものと考えられた。
  3. 繁殖牛の多頭経営では、子牛の育成も群飼い放牧体系が、労力やコスト面から有利である。そこでパドック及び放牧地において個飼いの子牛の発育に群飼い子牛を近づける柵ごし哺育等の技術の開発、確立が今後のぞまれる。

日本短角種子牛ピロプラズマ病対策

吉川恵郷・豊田吉隆・蛇沼恒夫・平賀健二・及川 団・加藤英悦

 子牛のピロ病は、現在も主要な放牧病とし位置づけられている。その被害は永年の同一剤使用による薬剤耐性から生じたことによる。そこで1984~1986年の期間、予防的応用の少いジミナジン製剤を供試し、その効果ならびに応用法について検討を加えた。

  1. 本剤の投与効果として、本病による貧血の軽減と抑制が図られ、日増体重の改善を認めた。
  2. 投与回数は2回必要である。時期は初回が放牧3~4週目、第二回は初回投与後4週目頃が適期と判断された。
  3. 予防的投与量は、kg当たり5ミリグラムで充分効果を認めた。
  4. 皮下投与法は常法との間に差がなく、集団飼養場での処置として有用な手法であった。団飼養場での処置として有用であった。
  5. 同法による著しい副反応は認められなかった。
  6. 2年連用となった試験牛のTs寄生率に差を認めなかった。
  7. 3年目の連用となった民間牛群のHt改善阻害はみられなかった。

オーチャードグラスの刈取時期別飼料価値

佐藤勝郎・太田 繁・伊藤陸郎・山田 亙

(摘要なし)

フェスク類の生産利用特性 -トールフェスク、ホクリョウを中心に-

山田 亙・落合昭吾・小針久典・伊藤陸郎・佐藤勝郎・太田 繁・細川 清

 TDN含有率の高い粗飼料生産をめざすため、オーチャードグラスと組み合わせて利用する草種としてトールフェスクについて検討してきたが、その中でホクリョウという品種の持つ優れた特性を確認した。ホクリョウは春の生育がやや遅く出穂期も遅い晩生種であるが、その性質を利用し春の生育の早いオーチャードグラスと組み合わせて利用することにより、良質な粗飼料を得ることが可能であり、春の一番草の収穫適期幅を拡大することができる。

 また、ホクリョウはミネラルのバランス(当量比)の非常に良い品種でもあり、今後、採草用の基幹草種としての利用を図っていくことが必要である。

とうもろこしの早播効果と遅霜被害

太田 繁・山田 亙・久根崎久二・小針久典

  1. 岩手県下の平場では平年晩霜日の10~20日前、山間高冷地で10~15日前にとうもろこしを早播きすることにより、熟期を早め、乾物、栄養収量を高め得ることが明らかになった。また、早播きにより、下位節間が短縮し、稈が太くなることが認められた。なお、早播きによるメリットを生かすためには、当該地域での平年晩霜日を正確に把握した上で、早播きを実施することが、霜害予防上重要な前提条件である。
  2. 霜に遭った場合、被害株の再生可否を早急に判定することが、事後の対策上必要である。そこで、観察的に、被霜した株の茎部の緑色部の長さから、再生可否を判定する方法を検討したが、無理であると判断された。櫛引らが指摘しているように、再生可否のポイントは種子の覆土深にあることが、実態調査によって確認された。被害株の個々のデータから、被害株の再生可否の判定目安図を作成したが、葉数及び覆土深を調査することによって、目安図から、再生可否を判定できるものと考えられた。
  3. 剪葉処理によって模擬的に遅霜の被害を設定して、播種期の異なるとうもろこしの収量に及ぼす影響を検討した。剪葉処理であるため、色々の点で、実際の霜害と異なることは勿論であるが、被害程度予測の一応の目安として利用可能と思われた。

サイレージ用とうもろこしの不耕起栽培

伊藤陸郎・佐藤勝郎・久根崎久二・太田 繁

 とうもろこしの不耕起栽培は省力的である一方、生産力は耕起栽培に劣らぬ成績が得られた。これは傾斜地等トラクター等の機械作業が難かしい所で、特に好適し省力性が大きい。また春季の忙しい時期に天候に大きく左右されず不耕起のまま播種作業が可能であり、寒冷地における適期作業上も また労働配分上極めて効果的である。更に耕起した表土のエロージョン(風蝕)が心配される地域で適する。一方重粘土地域では今後の研究を必要とする。

 また、不耕起栽培は干ばつ時における発芽勢ならびに生育の促進に有利であると思われる。本試験での除草体系は播種直後除草剤散布を行ったが、耕起栽培に比べて不耕起栽培は雑草抑制効果が高かった。ただし雑草の多い圃場では、播種直後のほか、生育期処理も必要と思われる。

 不耕起栽培は地際部に節間が集っており分けつが出やすく、併せて稔実への影響が考えられることから、その対応技術の究明が必要である。

奥山草地の利用促進技術

久根崎久二・川村正雄・佐藤明子・斎藤節男・蛇沼恒夫

  • 奥山草地の利用管理基準
     高標高の奥山草地では、1番草刈取が6月上旬の出穂期から8月の枯熟期までの長期にわたる場合が見られる。こうしたことから、これらの地域で収量と草生維持を図るためには、2回刈を前提とした施肥管理を行うことが必要であり、次のことに留意することが重要と考えられる。
  1. 気象条件と作業能率を考慮して刈取時期をあらかじめ想定し、その早晩に合わせた施肥管理を行うことが重要である。早春の施肥量は、出穂~開花始めの早刈では草地化成(20-10-20)10アール当たり50~75kgとし、開花~結実期刈では50kg、それ以後の刈取では25kgとする。
  2. 1番刈後の追肥量は10アール当たり50kgとし、2番草の刈取は1番草刈取後70日を目途とする。以上の方法により10アール当たり1,000~1,300kgの高い乾物収量が期待できる。
  3. 枯熟期刈は、栄養収量と草生密度を低下させる。従って、オーチャードグラス主体の草地は、遅くとも出穂後約30日(7月中旬)までに刈取ることが必要であり、これよりも遅れる草地については、オーチャードグラス以外の草種との組合せ利用が必要である。また、結実期までに1番刈を行い、約70日後に2番草を刈取った場合には、10アール当り500~1,100kg程度の残草が生じるので放牧による有効利用を図ることが望ましい。
  • 低コスト安定貯蔵技術の確立
  1. 奥山草地における採草利用効率を高め、貯蔵粗飼料生産における調製作業と運搬作業を切り離すことが重要である。
  2. 乾草の簡易現地貯蔵法は塩化ビニールシートを利用する簡易な方法が望ましく、ビックベール乾草ではビニール巻、コンパクト乾草では雨よけ+下敷が比較的良い方法と考えられた。しかし、いずれの方法も2週間程度の貯蔵期間にとどめるのが安全である。
  3. 低水分サイレージの現地貯蔵は第1次、第2次の再貯蔵とも安定的に良品質のものが得られる方法であり、特に再貯蔵時のアンモニア添加は効果的と考えられた。
  4. 低水分梱包(半乾草)の現地短日堆積(放置)と移動再貯蔵
     低水分梱包は調製後、直ちに密封貯蔵するのが原則である。しかし、天候その他諸般の条件で密封不能の場合3~5日は現地に堆積あるいは放置しても、その後できるだけ早い機会に密封貯蔵しなければならない。この場合、アンモニアの添加は効果的であった。

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