岩手県畜産試験場研究報告 第11号(昭和57年3月発行)

ページ番号2004898  更新日 令和4年10月11日

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肉牛放牧による高原造林地牧養力の年次推移

笹村 正・新渡戸友次・落合昭吾・小針久典・帷子剛資・及川稜郎・道又敬司・菅原休也・蛇沼恒夫・渕向正四郎・谷地 仁・斉藤精三郎

 本試験は、生長が遅く経済性の低い高原圏の造林地に肉用牛を放牧することにより、畜産と林業の相互補完関係の確立を図るとともに、山地の利用を促進、実証するため、実用規模により行った。使用試験地は、岩手県畜産試験場外山分場に隣接する、標高800メートル前後の、比較的傾斜のゆるやかな、アカマツとカラマツを混植した人工造林地である。当場では、昭和45年より11年間に亙り、放牧適性の優れた日本短角種の繁殖雌牛を延べ約700頭とその子牛約550頭を使用し、造林地への夏期放牧試験を実施して来た。本報告は、主として昭和50年から55年までの6年間の成績について取りまとめたものである。

  1. 放牧が造林木に及ぼす影響
     被害木の発生率は初年次には5%程度であったが、林令が進むにつれ低下し、50C・D/ヘクタール程度の放牧圧の場合には、10年生林では、ほぼ皆無となることが知られた。しかし、この程度の放牧圧の場合には、同一林令の放牧造林地相互の放牧圧の差と被害率の間には、一定の関係は見られなかった。アカマツの被害率はカラマツに比べ高かったが、10年生以後には両者とも被害を受けなくなった。また放牧が林木の生長に対して悪影響を及ぼすとは判断できなかった。しかし、造林木の主伐収穫までには長年月を要するため、生長過程の初期における放牧被害の許容範囲を判定することはできず、今後に残された課題である。
  2. 造林地牧養力の年次推移
     植生タイプ別の林床野草収量には有意な差はなかった。また樹種別では、アカマツは9年生林で最高収量856.5kg/10アールを示し、カラマツは7年生林が最高収量995.0kg/10アールであった。しかし、いずれの樹種でも、13年目の収量は300kg/10アール程度まで低下した。13年生林の林床に到達する日射量は、アカマツ林の場合は6年生林の、カラマツ林の場合は7年生林の各々約20%となり、これが野草収量低下の主因になっていると考えられる。
     植栽後2・3年間は造林木の被害を低く抑えるためには、放牧圧は30C・D/ヘクタール以下に制限しなければならない。また11年生以後は野草の生産量が低下し、牧養力は30C・D/ヘクタール以下となる。したがって、4~10年生の7年間は40~50C・D/ヘクタールの安定した牧養力を確保し得ることが判明した。また牧養力の低下が始まる10・11年生以後は、放牧諸施設の有効利用を図るためにも、補助牧区を組み入れて放牧年限の延長を図る必要がある。
  3. 肉用牛の繁殖生産性
     造林地内への放牧においても充分な監視体制等のもとで、注意深く輪換放牧を行なうことにより、一般の放牧地におけると同程度の子牛の日増体量、雄0.75kg/日、雌0.65kg/日を確保できるものと思われた。また子牛の増体のパターンおよび2才以上の成牛の体重推移も、一般放牧地におけるものと異なるものではなかった。
     まき牛による受胎率は90%以上を確保することが可能であり、一般牧野における日本短角種の受胎率にそん色ないものであった。造林地放牧に伴うと思われる疾病、事故は皆無であった。
  4. 総括
     以上の諸点より、高原造林地への肉用牛放牧は、造林木の生長の各々のステージに合わせた適正な放牧圧を保つことにより、造林後2~5年生林では70~90%程度の下刈省力効果が期待され、その後6~10年生林では40~50C・D/ヘクタールの安定した牧養力が期待できる。また11年生林以後は、補助牧区を併用することにより13年生林まで放牧することが可能であった。
     本試験により、植林後2年目から13年目まで継続した林畜共存の山地利用の可能性が実証された。
     なお、14年目以後の林地の畜産的利用法については放牧可能期間をさらに延長すべく林木の除間伐の方法と、林地への牧草導入方式について、現在試験実施中である。

高冷傾斜地における不耕起放牧草地の草生回復に関する研究 第1報 人為追播法による草生回復

小針久典・桜田奎一・太田 繁

  1. 高冷傾斜地の不耕起放牧草地における草種構成の偏りの是正と牧養力の向上をねらいとして人為追播法を検討した。
  2. 昭和41年造成の利用11年の不耕起放牧草地において、秋期に放牧後、直播きによる追播を行ない発芽後、管理放牧を行ない。翌年以降放牧開始時期、放牧強度を違えて、追播草種の定着、生育の推移を検討した。
  3. 播種当年の管理放牧の開始時期は、既存草種による庇圧の影響を回避するため、早目の管理放牧が必要である。
  4. 追播翌年以降の追播草の生育は、入牧時の裸地率の大きい所ほど、また入牧時期が早く、入牧時の現存草量が少ない牧区において、また放牧強度の大きい牧区において良好であった。追播翌年の放牧は1・2番草で、現存量が10アール当り440kgに達する前に放牧することが必要である。また、追播効果の維持のためには、最低生草1トン当り10CD以上の放牧圧が必要である。
  5. 追播による草種構成比率の向上率は、1~10%の範囲にあり、ペレニアルライグラス、オーチャードグラス、トールフェスク、チモシー等において比率が向上した。
  6. 追播により、雑草・裸地は低下し植被率は向上した。
  7. 追播により、牧養力が若干向上する傾向がみられた。
  8. 不耕起放牧地における人為追播の場合の、追播草の定着のための条件(主に草生及び放牧方法、時期、強度)及び期待できる草生改善効果(草種の偏りの是正、植被率の向上、雑草率の低下)の程度が明らかにされ、人為追播を行なう場合の手掛りになるものと考えられる。

高冷傾斜地における不耕起放牧草地の草生回復に関する研究 第2報 天然下種法による草生回復

落合昭吾・山田和明・笹村 正・太田 繁

 不耕起放牧地の天然下種による草生回復を目的に、種子の形成を含めた草種の生育特性、種子の発芽特性、草地管理法、実際の放牧草地での天然下種処理により検討を加えたが、本試験期間内では草生回復の実証には到らず、天然下種の成立する条件を整理したにとどまった。天然下種が成立するためには、種子が稔実したうえで、下種後の残草処理とルートマット層の破壊が必須条件となる。その後の管理は追播草地と同様に、前植生を抑圧し、新個体の定着を促進する放牧管理が必要であり、粗放的な管理の不耕起造成放牧地には適応しにくいものと思われる。

とうもろこしと大麦によるサイレージ用作物の作付方式と利用

平野 保・瀬川 洋

 最近は粗飼料の平衡給与の軸として、サイレージの通年給与が普及している。この場合にはサイレージの高品質化が鍵とされると同時に、多収穫を得て自給率を拡大することも大きいねらいである。
 本試験では、多様化するとうもろこし品種の収量や特性の確認と整理を行ない、冬作大麦を含めて安定多収の作付方式と栽培技術の検討を行なった。以下その結果を総括した。

  1. とうもろこし早晩生品種群の生育特性
     供試したとうもろこしの輸入品種は、早生種から晩生種まで大きい差がみられた。寒冷地では秋の訪れが早く、晩生種は子実の充実が不足しがちで、とりわけ冷涼年は顕著であった。早晩生で品種をグループ分けしたが、晩生種群の他に極晩生種群を設けて、より詳細な品種と地域適合性の把握が必要であった。各品種が適合する地域の条件として、県内各地域の播種開始適期、さらに栽培期間中の積算気温を地域分級で示した。
  2. とうもろこし早晩生品種群の収量および栽培密度の影響
     とうもろこしの乾物収量は、晩生種はど多収を示した。しかし、乾物率や雌穂重割合は年次変動が大きく、冷涼年は明らかに低い数値となり、良質サイレージ材料としてみた場合、晩生種は限界線上にあることが示された。早生種ほど短稈であるために、多収のためには密植が条件となったが、密植の増収効果は高かった。日当たり乾物収量では早生種ほど高いことが明らかであった。寒冷地において良質サイレージ原料を多収しようとする場合は、地域に合った適度に早生な品種を選択して、密植によって達成をねらうことが効果的であり、とりわけ、二毛作方式導入などで播種が遅れる場合は一層重要になると思われた。
  3. とうもろこし栽培の管理技術
     とうもろこし除草剤の試験を行なった。ゲザプリム水和剤は主に広葉雑草に対して、ラッソー乳剤は主にイネ科雑草に対して効果が認められた。雑草の数と量が多いときは、双方を用いることではば完全な効果が認められた。通常の栽植密度を保ちながら全収量を低下させないことを前提に、ツルマメ混作を検討した。ツルマメは初期生育が遅れることととうもろこしへの絡りが不充分なことから被圧が大きく、収穫時のツルマメ混入割合は全体に対して乾物比3~8%で、全体のDCPの向上は0.5%程度にすぎなかった。
  4. 冬作大麦の導入
     秋播大麦は、子実収穫のための奨励品種であるベンケイムギとミユキオオムギが、越冬性が良くホールクロップ収量も10アール約1トンの乾物収量で高く安定していた。春播性の高い品種は越冬性が不良で、早生であることは春先きの栄養生長が不充分で、低収であった。栽培技術としての耕起はロータリ耕で良く砕土され、播種後の覆土と鎮圧を充分に行なうことで発芽定着と越冬が良くて高収となった。播種までの期間短縮をねらった不耕起法や播種後の堆肥トップドレッシングは障害がなく、安定収量が得られた。とうもろこし用作業機による管理を前提とした条播法は、作業技術としては可能で、収量は散播に対して87%程度であったが、実用的な方法であった。
  5. 二毛作実証と大麦サイレージの調製
     年平均気温9.0℃で寒冷地に位置する滝沢では、余裕のみられない技術であった。実証年は不良天候となって熟期の進行が不充分で低収となったが、一毛作や永年牧草の収量に対して充分勝り、合計乾物収量は10アール当り2,136kgであった。費用試算の結果からも二毛作方式の有利性が得られた。しかし機械化一貫体系であるため費用は高くなって、TDNkg当り100円以下とするためには6ヘクタール以上の作付で実施する必要が認められた。ロークロップ・アタッチメント付のシリンダ型ハーベスタによって条播大麦を収穫することができた。しかし、高刈りとなることやオフセット型ハーベスタでは車輪踏み倒しによる刈取り損失もみられた。

肉牛の肥育に関する研究(5)-若齢肥育における成形粗飼料の給与水準が産肉性に及ぼす影響-

小野寺 勉・谷地 仁・川村祥正・桑山雄二・佐藤 彰

 若齢肥育の発育旺盛な肥育前期に良質粗飼料を多給し、濃厚飼料を節減する肥育技術の確立を図るため黒毛和種去勢牛24頭を用い肥育試験を行なった。
 肥育期間を肥育前期(182日間)と後期に分け、肥育前期に濃厚飼料を体重比1.5%(1.5%区)、1.1%(1.1%区)、0.7%(0.7%区)に制限し成形粗飼料を給与した3試験区および濃厚飼料を自由採食(粗飼料は稲ワラ)の対照区を設けた。肥育後期の濃厚飼料は自由採食とし粗飼料は稲ワラを用いた。
 また、飼料添加剤モネンシンの添加効果、ヘイキューブとコーンキューブの産肉性の違いも併せて検討し、屠殺目標体重は600kgとした。

  1. 肥育前期の増体重は1.1%区(DG1.126kg)>対照区(同1.083kg)>1.5%区(同0.935kg)>0.7%区(同0.890kg)の順であり、1.1%区と1.5%区・0.7%区、対象区と0.7%区の間に有意差がみられた。
  2. 肥育後期のDGは1.1%区(DG0.844kg)>0.7%区(同0.775kg)>1.5%区(同0.744kg)>対照区(同0.743kg)の順であり、1.1%区以外は肥育前期の順位と逆になった。
  3. 肥育全期間のDGは1.1%区(DG1.003kg)>対照区(同0.918kg)>1.5%区(同0.853kg)>0.7%区(同0.830kg)の順であり、1.1%区と1.5%区、0.7%区に有意差がみられた。
  4. 濃厚飼料の摂取量は対照区の2,654kgに較し、1.1%区824kg、0.7%区712kg、1.5%区225kg少なく摂取したが粗飼料は多く摂取し、1kg増体に要したDM、DCP、TDNで対照区より優れたのは1.1%区だけであった。
  5. 脂肪交雑、枝肉格付は対照区に比較し試験区が劣る傾向がみられたが有意差は認められなかった。また、皮下脂肪は対照区に比較し試験区が薄くなる傾向がみられ、枝肉の構成の脂肪割合も試験区が少なくなる傾向がみられた。
  6. 飼料添加剤モネンシンは増体量で44%、飼料要求率で6.8%の添加効果がみられたが有意差は認められなかった。また、モネンシンの添加効果は肥育前期に強くあらわれ、肥育後期では薄れていく傾向がみられ給与時期、量の検討が必要と思われる。
  7. コーンキューブとヘイキューブの嗜好性はほとんど差はなく、成形粗飼料給与期間の増体量はコーンキューブが12.9kg優れた。屠体形質に関しては両区に大きな違いはないものと示唆された。

 肥育前期に良質粗飼料を利用することによって増体・飼料要求率を低下させずに濃厚飼料を大巾に節減することが可能であった。成形粗飼料の給与期間を6カ月とすると、その後6カ月の仕上げ期間では完全に枝肉の黄色脂肪の脱色を図れないことから成形粗飼料の給与期間、仕上げ期間等を今後明らかにする必要があると思われる。

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