岩手県畜産試験場研究報告 第10号(昭和56年3月発行)

ページ番号2004899  更新日 令和4年10月11日

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乳用牛の早期繁殖に関する研究

佐藤彰芳・杉若輝夫・青木章夫・似里健三・斉藤精三郎・三浦由雄・道又敬司・瀬川 洋

 草を主体とした育成での早期繁殖(12~13ヶ月令種付)技術確立のため実施した結果は次のとおりである。

  1. 発育への影響
     哺育・育成時期の発育がホル協発育標準値内を推移し、12~13ヶ月令時で体重280kg以上の乳牛に対する早期繁殖では発育に何ら悪い影響は認められない。
  2. 産乳性
     初産泌乳期の305日換算乳量は、試験区高栄養4,043.1kg、対照区4,006.0kg、試験区標準3,844.2kgの順であったが有意な差ではない。試-標区は同一飼養の対照区に比し4%滅乳であった。試-高区は対照区に勝り濃厚飼料3~4割増給の効果がみられ、能力指数でも同様の傾向を示した。2産以降は各区同様の飼養管理の結果、対照区5,786.7kg、試-標区5,170.7kgと対照区に比し試験区は600kg(8.7%)減であったが有意な差ではない。
  3. 初産分娩時における体重の変動と産子体重
     初回発情発現は10.7ヶ月(体重278kg)、受胎月令は試験区12.8ヶ月(309.8kg)、対照区15.2ヶ月(358.8kg)、分娩月令は試験区21.9ヶ月(483kg)、対照区24.3ヶ月(526kg)、受胎後分娩までの体重増はそれぞれ173.2kg(DG621g)、167.2kg(DG606g)と試験区が大であり分娩による体重減少量は試験区72.3kg、対照区78.0kgと試験区の影響が少なかった。産子体重は試験区35.7kg、対照区39.8kgで分娩前母牛体重に対する割合は両区とも試験区7.4%、対照区7.6%と母牛に比例した子牛生産を示した。
  4. 初産分娩時の状況
     分娩所要時間、分娩後母・子牛起立までの時間は試験区が短く、胎盤の娩出・重量・宮阜数では差がみられない。助産は対照区の陣痛微弱1頭以外は軽度の助産であった。また分娩事故として両区に早死産1頭、他に試験区の人工呼吸を施した1頭と対照区双児の1頭死産で、両区に差は認められない。
  5. 受胎成績および分娩間隔
     初産種付成績は試験区の1回種付による受胎率76.5%と高く平均1.3回、対照区平均1.7回、2産種付は試-高、試-標、対照の順に受胎率が高く、分娩間隔も同傾向を示した。3産種付は試験両区とも1.7回に対し対照区2.6回と悪い結果を示し、1~3産の平均分娩間隔は、試-高区13.6ヶ月、試-標区と対照区は14.7ヶ月で初産泌乳期の濃厚飼料多給区が良い結果を示した。
  6. 初産分娩後の再発情と受胎
     分娩後の再発情は試-高区が最も早く56日目、次いで対照区97日、試-標区100日と体重増加の見られない区ほど早い傾向を示し、濃厚飼料加給区の子宮回復が特に短縮された。受胎までの日数では試験の両区が対照区に比し0.5~1ヶ月早く受胎し、早期分娩牛が順調な受胎を示した。
  7. 分娩予知
     早期繁殖にかかわらず初産分娩時の立会は必要であるが、分娩時間帯を予め知る方法として直腸温の測定を実施した結果、9時と16時の1日2回測定しどちらかの直腸温が今迄の平均値より0.8℃(0.5~1.1℃)低下した19時間(14~24時間)後にほとんどの牛は分娩することが判明した。
  8. 生後60ヶ月(満5才)までの産乳性
     早期繁殖により早期分娩させることは、育成期間の短縮による育成費の節減、労働役下の節減であり、投下資本の早期還元にあることから、一定期間内の産乳量が劣らない限り早期収入開始が望ましい。生後60ヶ月問(1,825日)の産乳量を比較してみると、試-高区16,235.1kg(日量8.90kg)、試-標区15,139.3kg(8.30kg)、対照区14,305.8kg(7.84kg)と早期種付が生涯生産性として高い傾向を示している。

肉牛の肥育に関する研究(4)-黒毛和種去勢牛における粗飼料の種類と仕上げ体重の違いが産肉性に及ぼす影響-

小野寺 勉・菊地 惇・谷地 仁・斉藤精三郎・吉田宇八・菅原休也

 粗飼料の有効利用を図り、濃厚飼料を節減する肥育技術を検討するため、黒毛和種去勢牛36頭を用い、濃厚飼料を体重比1.2%に制限し、粗飼料としてヘイキューブ、乾草を給与する区、(ヘイキューブ区)とサイレージを給与する区(サイレージ区)を設けた。仕上げ目標体重はヘイキューブ区、サイレージ区それぞれ、550kg屠殺区(550kg区)、600kg屠殺区(600kg区)、700kg屠殺区(700kg区)を設け、2×3の6区で肥育試験を行った。

  1. 肥育全期間の1日当り増体量は体重を大きくするにしたがって、低下する傾向がみられたが濃厚飼料を低く抑えたため低下の度合は緩慢であった。粗飼料間では各屠殺区で若干差はみられたが3区の平均では差はなかった。
  2. 飼料要求率は屠殺体重間では550kg区<600kg区<700kg区であり、屠体重間に有意差(1%水準)がみられた。粗飼料間では差はなかった。
  3. 肥育全期間粗飼料を有効に利用することにより、濃厚飼料の摂取量は濃厚飼料多給の肥育に比較して約600~800kg節減された。しかし、粗飼料は乾草換算(水分15%)で節減した濃厚飼料量の約1.5~2.0倍の量を必要とした。
  4. 枝肉歩留、皮下脂肪は月齢を延ばし、体重を大きくするにしたがって数値は高くなり、屠殺体重間に有意差(1%水準)がみられた。枝肉歩留は月齢より体重との相関は高く、皮下脂肪の厚さは回帰式から体重595kg以上になると2cmを越える。
  5. 脂肪交雑は個体差が大きく、明らかな傾向はみられない。体重より月齢との関連が深いが有意ではなかった。したがって脂肪交雑の入る個体では23ヶ月齢500kgで「極上」が可能である。また、この時期に脂肪交雑の入らない個体はいくら月齢をのばし、体重を大きくしても多少の向上はあろうが、大巾な向上はないものと推察される。
  6. 脂肪交雑を被説明変数として、生体、屠体の30項目および肉の理化学的性状23項目、各々について重相関を求めた結果、生体、屠体ではR=0.965、肉の理化学的性状ではR=0.877という高い値を得た。
  7. 枝肉の脂肪色はヘイキューブ区がヘイキューブに多く含まれるカロチンの影響と推察される黄色を呈した。
  8. 肉の一般粗成では、粗脂肪の増加にしたがって水分が減少した。また水分と脂肪交雑に高い相関がみられた。

 増体および飼料要求率においてヘイキューブ+乾草とサイレージの間に差はなかった。
 ヘイキューブは屠体の脂肪を黄色にするし、脂育全期間の粗飼料多給では枝肉の脂肪がしまりに欠ける等から高級肉を志向する黒毛和種では、粗飼料多給は肥育前期に効率よく利用すべきであろう。
 月齢を延ばし仕上げ体重を大きくしても枝肉格付の向上はあまり期待出来ず、増体、飼料効率が低下することから粗飼料多給の肥育でも屠殺適期は550~600kg(24~26カ月齢)であろうと推察される。

山地における肉用牛の集団育成技術 -発育と繁殖性-

新渡戸友次・谷地 仁・谷藤隆志・渕向正四郎・道又敬司・帷子剛資・平野 保・桜田奎一

 本研究では山地の放牧飼養体系による肉用牛の繁殖経営における飼養技術の諸問題について検討してきたが、要約すると次のとおりである。

1 発育条件と発育

  1. 母牛の泌乳量は1日平均乳量でN種9.1kg>B種6.4kg>H種5.9kgの順に多く、N種の泌乳量が優れている。また泌乳量と子牛の増体量の間に高い相関が認められるため(r=0.893)、子牛の発育改善のためには泌乳量の高い母牛を選抜飼養することが有利となる。なお年次、産次の進行に伴う泌乳量の変化については今後の課題として残された。
  2. 別飼については、その行動の実態は本調査でほぼ明らかにされてきたが、自由採食としたにもかかわらず採食量が少いこと等から、十分な別飼効果を上げるには到っておらず、山地の放牧飼養体系における別飼方法の改善策等今後の課題として残された。
  3. 放牧開始時日令と発育については、N、B種では開始時日令が進んでいるほどその後の発育値が高い傾向が見られ、ことに30日令前後を境としてその差が大きいように見うけられる。これらのことから放牧開始時に30日令程度に満たない子牛については、放牧開始を遅らせ、少なくとも30日令以上になってから放牧することが、子牛の発育改善につながるものと思われる。なおH種については明らかでなかった。
  4. 増体量(D、G)を牧草地、野草地の放牧体系別で見ると、N、H種は牧草地で、B種については野草地放牧において他に比べ増体がよかった。この事は渕向らの報告されている品種の特性としてN、H種は採食性がB種に比べ高く、またB種は行動性、採択採食性の高い傾向が見られることによるものと推察されるが、放牧地面積、放牧草種、品種に対する気象的要因も考慮しなければならないものと思われる。戸田らは野草地、牧草地の組合せ牧区によるN種の放牧でよい成果が得られたと報告しており、今後B種についても検討が必要と思われる。

2 放牧育成牛の繁殖性

  1. N種:明3才時の分娩率は80%で、4才以降の分娩率に比べやや劣るが実用的な値が得られている。また、明3才分娩を行うことにより、その後の連産性に影響を与えることはなく、7才時までの子牛生産頭数は4.6頭で、同不妊牛の3.8頭に比べ約1頭多く生産されている。発育は明3才分娩後の哺育期間は、同不妊牛に比べ劣っており、離乳時前後のその差は最大となるが、その後両者の差は接近していく傾向が見られ39ヶ月令以降ははとんど有意差が認められなくなっている。産子の発育については、明3才分娩子牛は4才以降の産子に比べ劣るが、市場性を大きく低下させるはどではない。4才時以降の産子では3才分娩をさせた方が、同不妊牛に比べ勝る傾向が見られる。助産は明3才分娩時には41.9%と高い率を示しているが、軽い助産ですんでいるものが多く分娩事故も見られない。以上のことから、N種については明2才で繁殖供用することについて大きな問題点が見あたらず、経営上も有利と考えられるので、推奨されるべきものと考えられる。しかし、明3才分娩時の助産については軽度の助産が多いとはいえ助産率が高いので分娩管理には注意を要する。
  2. B種:発育値、助産ではN種と同様な傾向を示しているが、明3才時の分娩率が56%と低く、その後の連産性についても良い成績は得られなかった。また産子の発育値についても、4才時の産子では明3才不妊牛の産子に比べ有意に劣っている。これらのことから、現段階では明2才で繁殖に供用することが有利かどうか疑問があり今後の集団放牧飼養体系における課題として残された。
  3. H種:明3才時の分娩率、難産等問題が多く明2才での繁殖供用には慎重を要する。

酪農経営の展開に関する研究 -水田地帯における複合酪農経営と開拓地における専業酪農経営の事例分析-

阿部 誠・漆原礼二・戸田忠祐・駒米 勉

 本県酪農経営の主流となっている水田地帯の複合酪農と開拓地における専業酪農をとりあげ、土地に立脚した安定的な酪農経営を確立するための技術的、経営的方策は何かを明らかにする目的で調査を行った。

1 水田地帯の複合酪農経営

  1. 共同採草地の造成は、生産組織の発生を促し、構成農家の飼養頭数を増加させた。草地の刈取→運搬→貯蔵の諸工程はそれぞれに作業特性があり、技術の変革、個別農家の経営発展に合わせて作る粗飼料の種類や、生産体制の変更が必要である。
  2. 専任オペレーターによって、草地管理、収穫が行なわれ、農家は運搬だけを担当するこの方式は、トラック1台あれば採草でき、また運搬労働費分を所得化できるなど、複合規模段階で有効な方法と思われる。
  3. 乳牛の飼養規模や必要性に応じて利用が進められた結果、農家の経営構造によって共同採草地活用の程度は異なる。つまり、水田面積が大きく既存飼料畑の小さい農家は、共同採草地への依存割合が高く、飼養頭数、産乳量とも多い。逆に水田面積が小さく、既存飼料畑の大きい農家は、依存割合が低く、飼養頭数、産乳量とも少ない。
  4. 共同採草地利用上の問題は、収量が低いことである。特にその原因となっている1番草処理の遅れを解消することが必要であり、育苗の委託による稲作の合理化、既存飼料畑の飼料生産方式の再編など、公共も含めた地域的組織化が重要となっている。
  5. いずれにしても、水田地帯における複合酪農は、飼料基盤が規制要因となって停滞を余儀なくされているが、これを真に確立するには、飼料基盤の外延的拡大と飼料生産の組織化が重要と考えられた。

2 開拓地における専業酪農経営

  1. S酪農研究グループは、1967年、地区の開田を契機に、それを拒むことによって結成されたものであるが、常にグループ内での話し合いによって、段階的に頭数を拡大し、それに合わせた施設の整備、飼料生産方式を確立し、等質的な発展を目ざしてきたことに重要な意義を見出す。つまり、多頭化に伴う飼料生産と飼養管理の労働競合を解消するための省力的施設、機械への投資は、個別では経済的に困難であり、さらに、飼料生産の組作業の必要性から、集団的、組織的対応が求められたのである。
  2. しかし、土地の制約は、購入飼料への依存を強め、購入飼料の価格変動による収益性の不安定化、糞尿処理の困難性などの問題を内包しつつ経営が進められている。技術的には、自給飼料の利用率が低いことが問題であり、合理的輪作体系、作物および利用調製種類の選択などによる収穫貯蔵技術の確立が重要である。
  3. 投資の少ない現段階における、飼養規模は、飼料基盤によって異なるが、経産牛20頭規模が労力的にも適正と考えられ、今後生活水準の上昇に伴う所得の増加は、頭数拡大によって達成するのではなく、産乳能力の向上、土地生産力の向上などの経営努力によってなされるべきである。
  4. いずれにしても、頭数拡大によって所得の増加は期待できるものの、規模によって選択すべき技術が異なると同時に、頭数拡大が即所得増加に結びつかない場合もあり、経営条件に適合した技術の選択、規模の決定が重要と考える。
  5. さらに、米の減反政策に伴う転作田の借地が可能となっており、借地による拡大が今後の1つの方向になると思われるが、その場合には、既存飼料畑と借地を含めた飼料生産方式の再編が必要である。

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