岩手県畜産試験場研究報告 第7号(昭和53年3月発行)

ページ番号2004902  更新日 令和4年10月11日

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家畜糞尿の草地還元に関する研究

久根崎久二・佐藤勝郎・落合昭吾・小原繁男・小針久典・伊藤陸郎

 家畜糞尿の施用限界量と多量施用の影響及び糞尿施用に対する化学肥料の併用法をオーチャードグラス草地を用いて検討した。

  1. 家畜糞尿を草地に連年施用する場合、収量及び草生密度維持の面からの施用限界量はアール当たり窒素成分量で10kg相当量(原尿1,250kg、原糞尿2,500kg、豚糞1,200kg、鶏糞800kg)である。
  2. 硝酸態窒素含量の面からの施用限界量はBRADLEYの0.22%を安全基準とすると、アール当たり窒素成分量で牛尿、牛糞尿は約10kg、豚糞、鶏糞は5~10kg相当量である。10アール当たり成牛2頭分の糞尿の施用までは収量及び硝酸態窒素含量の面から可能である。また年間生草収量がアール当たり750kg以上の多収草は硝酸態窒素含量が0.22%を越す傾向を示した。
  3. 牛尿、牛糞尿の多量施用は土壌の加里の過剰蓄積をもたらし、塩基間の不均衡が生じるため、牧草中の無機成分含量はKが顕著に高まり、括抗的にCa、Mgが低下し、K/Ca+Mg(me)比は高まり、Ca/P(%比)が低下し無機成分バランスを悪化させる傾向を示したので家畜への給与に当ってはCa、Mgの補給に注意する。豚糞は多量施用でもKの吸収が少なく、P、Ca、Mgが高く無機成分は良好に維持され、鶏糞の施用では無機成分含量とバランスは比較的良好であった。
  4. 牛糞尿、牛尿施用草地の牧草は加里含量が高くCa、Mg含量が低いためK/Ca+Mg(me)などの無機成分バランスが悪化しているので、化学肥料の併用は、窒素に対する加里の併用比率を下げ、燐酸、苦土、石灰質肥料の施用が必要である。また糞尿による加里の施肥成分量が連年アール当たり2kgを越える場合には加里の併用を控えてよい。
  5. 鶏糞施用による牧草の無機成分とバランスは比較的良好である。鶏糞アール当たり150kg(P2O5成分で2.5kg)以上の施用ではPの併用は収量に影響を及ぼさなかった。収量増と無機成分バランスを良く維持するためには、鶏糞施用に対する化学肥料の併用は、鶏糞アール当たり150kg施用草地への窒素と加里の比を2対1、300kg施用草地では窒素だけの併用で良いと考えられる。

高冷地における大量調製グラスサイレージの品質改善

太田 繁・蛇沼恒夫・平野 保・桜田奎一・佐藤勝郎・道又敬司・渕向正四郎

第1章 調製方法の改善

  1. 採草地の環境諸条件
     採草地は720~920メートルの高標高にあり、傾斜は5°~20°が全体の78%を占め、圃場の分散が多い。サイロまでの距離は1,500~2,900メートルが約40%を占めている。年平均気温は6.0℃と低く、無霜期間も125日と短いため、牧草の生育期間が短い年降水量はそれほど多くないが山地特有の霧の発生や結霜が多いなど環境条件は劣悪である。
  2. 牧草の乾草速度
     乾草による牧草水分の蒸散は1、2番草とも刈取時刻が早いほど、含水量の多い段階ほど反転回数に比例して高いが、乾燥効率とは一致しない。乾燥速度は葉部割合の高い牧草ほど高く、刈取機種によっても異なり、乾燥条件の悪い時ほどフレイルモアの乾燥効果が高い。
  3. 調製適期幅の延長
     標高が高くなるにつれて気温は低下し、オームチャードグラス、チモシーの生産量も減少した。年次差はあるが、標高差、草種・品種間の差は出穂期の差としてあらわれ、オーチャードグラスし北海道在来種、アオナミノとチモシー(ホクオウクライマックス)標高差200メートルの組み合わせで6月中旬から7月上旬まで刈取幅の延長が可能となった。
  4. サイレージ密封までの日数と品質
     詰込から密封までの日数が長くなると、踏圧と自重による詰込量の増大が認められるが、先に詰めたサイレージの品質は劣化した。
     密封までの日数と沈降量ならびにサイレージの品質から最大養分詰込量の許容限界を推定すればおよそ詰込4~5日目頃が密封の時期と考えられる。
  5. 詰込時の材料草の品質保持
     調製期間が長くなると先に詰めた材料草の品質は悪くなるが、ギ酸添加(0.4%)することで発熱は抑制され品質劣化は防止できた。
  6. 大型バイカーサイロでのギ酸添加によるサイレージの品質改善
     自動添加装置によるギ酸の添加は効率がよく、かつ良質サイレージ(優~良)の大量確保が可能となり、品質も安定的であった。牛の嗜好も良いこの時のギ酸の直接経費は1,050円生草1トン(1975年、添加濃度0.42%)であった。
  7. 大型バンカーサイロの密封方法
     労力面では、改良ポンド法<パッケージ法<慣行法の順に労力がかかり、資材費は慣行法<改良1ポンド法<パッケージ法の順に経費がかかった。
  8. 増体効果
     ギ酸添加グラスサイレージ給与による増体効果を肉用育成牛を用い検討した結果、年次間差はあったが、ギ酸添加区がやや勝る傾向を示した。しかし有意な差として認められなかった。

第2章 山地傾斜地における適機種選定
 大量調製条件でのサイレージの品質改善を前提として、山地傾斜地におけるトラクタ等の走行性を調査するとともに、大型機械作業体系確立のための適機種について検討した。

  1. 傾斜地におけるサイレージ調製の作業能率は、一般にフォーレージハーベスタの能力とトラクタのほ場走行性によって左右されるが、運搬車(トラック)を伴走する作業体系では、トラクタのスリップ率0.22~5.92%(登坂、ほ場傾斜度6~8度)に対して、運搬車のスリップ率が1.94~11.05%(登坂、ほ場傾斜度8度)と大きく、ほ場傾斜度5~8度以上になると運搬車の登坂力が作業能率を規制する第1の要因となった。
  2. サイレージ調製作業における運搬作業時間は、ほ場とサイロとの距離、道路の状態により大きな違いがあった。調製作業の能率を作業時間当たりのサイレージ処理量でみると、サイロからほ場までの距離が遠くなるほど処理量は減少し、その度合はほ場までの距離1.4~1.5kmを分岐点として、それ以上の長距離では減少が大きかった。
  3. 運搬車(トラック)1台当たりの伴走積載時間に対して、ほ場草量は作業時問を短縮させる要因となり、ほ場の傾斜度は増加させる要因となった。相互の関係として次の重回帰式が得られた。
     ダンプトラック(1.44±0.334トン積載)
      Y=13.1798-0.2020x1+0.1678x2 (5%水準で有意)
     平ボディトラック(1.53±0.380t積載)
      Y=14.3569-0.2655x1+0.1005x2 (1%水準で有意)
     但し、
      x1;草量(100kg/10アール)
      x2;ほ場平均傾斜度(度)
      Y;伴走、積載時間(分/台)
  4. ハーベスタの作業速度についてみると予乾調製と高水分調製の両方式間の差は小さかった。サイレージ処理量についても両処理が同程度の能率を示したが、1日当たりの処理量を高水分換算で比較すると予乾調製の58.2~68.8トンに高水分調製が63.2~71.0トンと僅かに上回る程度であった。
  5. ほ場における運搬車の登坂限界は、登降坂作業と等高線作業とでほぼ等しく、土壌水分およびほ場の平均傾斜角と部分傾斜角によって左右される。この部分傾斜角は平均傾斜角より大きく、能力限界に対して直接の要因となった。
  6. 牧草収穫用作業機械の傾斜適応性をみると、モーアではレシプロ、フレールに比べロータリ型が、フォーレージハーベスタではシックル、バーアタッチメントのシリンダ型に比べフレイル型ダブルカットの方が傾斜適応にすぐれていた。
  7. 傾斜地の草地管理用トラクタとして有望と思われるウニモクの作業性能をみると、各種作業ともホイールトラクタと差のないものであった。施肥作業の結果では平坦なほ場から傾斜度15度のほ場まで撒布時間に殆んど違いがなく、傾斜適応性の高いことがうかがわれた。
  8. ロータリスラッシャを用いた刈払作業の能率は小潅木が疎の牧草放牧地で時間当たり0.39ヘクタール、ササの密生地が0.21ヘクタールであった。不耕起造成作業の目的で実施した雑潅木地(7年生林、密生)では時間当たり0.11ヘクタールと低い能率で、トラブルの発生も多かった。

乳牛の飼養に関する研究 -乳牛に対する周年高水分サイレージ飼養-

似里健三・杉若輝夫・佐藤彰芳・三浦由雄・瀬川 洋・道又敬司

 粗飼料自給型の飼養頭数規模拡大を図る一方策としての周年高水分サイレージ飼養が牛体の生理及び泌乳におよばす影響について検討したところ次の結果が得られた。

  1. 飼料の摂取量について
     サイレージからのDM摂取量は乾乳期8.75kg、泌乳前期で9.50kg、泌乳中期で10.30kg、泌乳後期で10.8kgであり、全飼料からの養分摂取量は日本飼養標準比DCPで乾涸妊娠期118%、泌乳前期で115%、泌乳中期130%、泌乳後期で120%であった。また、TDN摂取量はそれぞれ104%、105%、114%、118%でほぼ正常な養分摂取量であった。
  2. 泌乳性について
     305日2回搾乳の乳量が試験区で第1乳期4,352kg、第2乳期4,874kg、第3乳期5,056kgと泌乳期毎安定した乳量増加であった。しかし、最高泌乳期の乳量が対照区に比較して低く推移し、なだらかな泌乳曲線を描いているのが特徴的であった。また、乳質についても泌乳量と同様に対照区との間に有意差は認められなかった。
  3. 体重の推移について
     1泌乳期における体重の変化は、妊娠、分娩、泌乳の時期によって一定でないが、1泌乳期における最高、最低の体重差は対照区に比較し試験区が大きい傾向がみられた。
  4. 血液及び尿性状
     赤血球数、Ht、ルゴール反応、血清蛋白、A/G比、血糖、Ca、P、Mg、VA、尿のPH値は、ほぼ正常の範囲で両区間に差は認められないが、分娩前後から泌乳前期における血清尿素-Nが試験区で低く、尿ケトン体の出現率及び程度は高く認められた。
  5. 繁殖性について
     分娩後排卵を伴った発情再帰日数は試験区で42.2±11.3日(CV26.9)、分娩間隔13.6±2.3ヶ月(CV17.1)、発情持続日数2.59±1.4日(CV54.0)、性周期20.3±7.0日(CV34.6)でバラツキが大きく、対照区に比較し、不安定な傾向にあったものと推察された。
  6. サイレージの品質と生理反応
     サイレージのDM摂取量と品質との間には有意な相関は認められなかった(r=0.31)が、尿ケトン体濃度との間には有意な正の相関(r=0.4238*)が認められた。また、サイレージの品質と血清尿素-Nとの間にはr=0.7414**と高い正の相関があり、さらに尿素-Nと分娩後の発情再帰日数との間にr=-0.517**の負の相関があり、尿素-Nと分娩後30日間の平均乳量との間には、r=0.422*の相関が認められるなど、サイレージの品質との関係が明らかにされた。
  7. 飼料構造と牛体の生理反応
     牛体の生理反応は給与飼料構造と牛体の分娩、泌乳等生理的時によって異った反応を示す。つまりコーンサイレージ給与期の血清尿素-Nが低く、生草放牧期における対照区の血清尿素-Nが高い。また低品質サイレージ給与の場合、サイレージ単味給与の試験区における尿ケトン体濃度が高く認められるが、同一低品質サイレージ給与に乾草を併用した場合の対照区の尿ケトン体濃度は低い値を示すなど、給与飼料の種類、品質、量および組み合せによって異った生理反応を示している。
     したがって、特に生理反応の強く現われやすい分娩前後から泌乳前期における低品質サイレージの単味給与をさけ、乾草の併用と適性な濃厚飼料の選定、およびビートパルプ等糖含量の高い飼料との組み合せなどバランスのとれた飼料給与がルーメン内の消化吸収機能を安定させ、周年高水分サイレージ飼養の可能性が示唆された。

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