岩手県畜産試験場研究報告 第6号(昭和52年3月発行)

ページ番号2004903  更新日 令和4年10月11日

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肉牛の肥育に関する研究 -飼料の給与方法の差異が去勢牛(黒毛和種、日本短角種、ヘレフォード種)の産肉性に及ぼす影響-

小野寺 勉・斉藤精三郎・谷地 仁・菊地 惇・新渡戸友次・戸田忠祐・吉田宇八

 若令肥育における品種の特性を知り、それを生かした肥育技術の検討をするため、黒毛和種(B種)、日本短角種(N種)およびへレフォード種(H種)の3品種を用い、それぞれの品種を開始時より、濃厚飼料と粗飼料を自由に摂取できる飽食区と濃厚飼料を体重比でI期(140日間)1.0%、II期(112日)1.4%、III期1.6%に制限し、粗飼料を自由に採食させた制限区を設け、仕上げ目標をB種550kg、N種600kg、H種500kgの体重に達するまで肥育試験を実施した。

  1. 全期間の日増体量は品種間では飽食区、制限区いずれもN種>H種>B種の順であり、飽食区は各品種間に有意差(1%水準)がみられ、制限区ではN種とH・B種の間に有意差(1%水準)がみられた。飼養区間では、飽食区>制限区であった。制限区/飽食区はB種95%、N種85%、H種83%であり、N・H種に有意差(1%水準)がみられた。
  2. 飼料要求率は品種間では、H種>N種>B種の順であり、同一体重(250kgから500kgまで)の比較では、N種>H種>B種であった。飼養区間では、B種は制限区<飽食区、N種・H種は飽食区<制限区であった。
  3. 濃厚飼料を制限することにより節減できた濃厚飼料の量は、B種550kg、N種440kg、H種410kgであった。しかしADM(水分10%)換算で節減した濃厚飼料量の1.1倍(B種)から2.1倍(N種)の粗飼料を必要とした。
  4. 枝肉歩留は品種間では飽食区、制限区いずれもB種>N種>H種の傾向がみられ、飼養区間では飽食区>制限区の傾向がみられた。ロース芯の断面積(第5~6胸椎切断面)は品種間、飼養区間には大差はなかったが、ロース芯面積比(ロース芯面積/冷屠体重×100)では、H種が優れ、H種とN・B種に有意差(1%水準)がみられた。
  5. 解体成績では、脾臓の重量がN・H種で重く、内臓脂肪、腸間膜脂肪はB種が重く、いずれも有意差(1%水準)がみられた。
  6. 脂肪交雑および枝肉格付は品種間ではB種>N種>H種であり、飽食区ではB種とN・H種の間に、制限区ではB種とH種の間に有意差(1%水準)がみられた。飼養区間では飽食区が優れ、B種、H種に有意差(1%水準)がみられた。
  7. 枝肉の9分割した結果、上級肉と言われるロース、腿の割合はH種が高かった。
  8. 若令肥育における屠殺適期はB種は550kg前後、N種は600kg前後であろう。H種は日増体量、飼料要求率、枝肉の脂肪付着等から判断し、本試験の仕上げ体重500kgより20~30kg大きくした方が良いと推察される。
     仕上げ目標体重は制限区が飽食区より若干大きめにしてよいと推察され、飼料区間ではN種、H種はそれぞれの特徴がみられたが、B種は飽食区と制限区の差が明確ではなく、このことからB種に対し濃厚飼料を飽食させるよりは、本試験の制限区程度に押えた方が良いと推察される。

高能率肥育経営の展開に関する研究 -規模拡大と技術の対応-

漆原礼二・戸田忠祐・阿部 誠

 規模拡大を考えるとき、規模の段階によって土地利用、労働投下、投資水準等がきめられるべきであり、バランスのとれた発展を期する必要がある。
 本研究では肉牛肥育経営について、規模段階による技術選択の区切りの目安を明らかにするため、水田地帯の複合による規模拡大を素牛調達、粗飼料構造、糞尿処理方式、販売方法、投資等について検討した結果、規模別の技術の対応の段階は30頭以下、50~70頭、100頭以上に区分された。
 30頭以下:経営上主作目を補足する程度で投資の少ない多労的段階である。
 50~70頭:投資水準、労働制約等の条件から決められる段階で土地または、集落等の条件対応の技術投入で成立する。
 100顔以上:専作としての位置が確立され飼養管理上、省力技術の導入、粗飼料調達の他依存、糞尿処理の本格的取組みが必要となる。
 さらに規模拡大を安定的にするため経営体をとりまく諸条件の整備が必要であり、素牛安定供給のための素牛ストック牧場、良質粗飼料生産牧場の設置、価格対策(共済制度)等が必須の条件と考える。
 肉牛肥育経営の展開は地域事情に併せて無理なく発展することが必要である。技術の確実な進歩、選択、規模に見合った投資、着実な規模拡大、経営をとりまく条件の整備、産地としての集団化等、地域としての充実が必要である。

成形粗飼料調製技術と利用法の確立

後沢松次郎・山本利介・平野 保・桜田奎一・杉若輝夫・菊地 惇・佐藤勝郎・藤島富嘉雄

第1章 材料草の収穫作業
 高い収穫能率と細断能力を期待できるシリンダ型フォーレジハーベスタの特性を明らかにし、また、運搬車を含めた幾つかの作業体系別に、材料草収穫の実際作業能率を調査して、比較検討した。

  1. けん引式ハーベスタの有効作業能率は作業巾1.45メートル程度のもので毎時9~10トン、1.6メートルで毎時10~12トン、1.85メートルで毎時10~17トンであった。
  2. 自走式ハーベスタの有効作業能率は、毎時25トン以上を期待できるが、少ない圃場草量や整地不良圃場など不良条件下では、けん引式の能率程度に低下すると思われた。
  3. 材料草切断長は、1番草で短かく均一であったが、2・3番草では長くバラツキがあり、カッターナイフを9枚にすることにより、比較的に改善できた。
  4. 自走式ハーベスタは、刈取力高さが高くて不均一で、残草割合が16%ほどみられた。
  5. ハーベスタ1台に対し、ダンプ式トレーラ2台の組合せでは、ハーベスタの有効作業効率が65~70%程度であった。ダンプ式トレーラの選択と3台のトレーラの組合せは、収穫作業の有効作業効率を一層高くすることができると思われた。
  6. ダンプ式トラックの使用は、運搬距離の長いところで、ハーベスタの作業効率を高めることができた。

第2章 導入した乾燥成形施設の性能
 当場に導入されたファンデンブルーク社製A-25型乾燥機と、西独のカール社製G100-38型成形機について、その性能と構造を明らかにした。さらに施設の性能にもとづいて、年間稼動計画を検討した。

  1. 乾燥ドラムは全長8.5メートル、外径1.9メートルで、干渉板・掻上板組合せワンパス方式で、毎時水分蒸発能力(カタログ値)2.5トンのものである。
  2. 成形機はローラ・デスクダイ型で、毎時製品生産能力1.5トンを持ち、ダイは成形穴16mmと24mmと30mmがある。
  3. 実際稼動における実運転時間は、作業時間より約1.5時間(0.9~2.0時間)少なく、この差の時間は材料待ちや乾燥ドラムの冷却、準備・後始末に用するものであった。
  4. 実績からの実運転時間に対する時間当たり平均能力は、水分蒸発量が高水分材料で カタログ値の85%程度で最大であり、熱効率が約70%、製品生産量約600kgが上限値として得られた。
  5. 実際稼動において、運転開始から約3時間でそのときの条件における上限能力値付近に安定できた。供給材料草の含水率にバラつきが大きいときは、操作上で上限能力値付近への安定がむずかしく、生産効率を低くした。
  6. 入口温度1,000℃、出口温度140℃で最大燃焼量が規制され、これは供給材料草量を制限した。また、スクリューコンベアなどの容量もネックとなった。
  7. 実際運転における安定時の能力から、材料含水率(X1)と乾燥ドラム出口温度(X2)との関係で、時間当たり蒸発能力
     Y=-2597.703+39.118X1+14.154X2
    を重回帰式で得た。しかし、上記6の理由から、適用範囲が限定された。
  8. 安定時の時間当たり蒸発量(X)と毎時燃料消費量(Y)とは有意な相関が認められ、
     Y=57.662+0.065X
    の1次回帰式を得た。
     また、材料草含水率(X1)と時間当たり製品生産量(X2)から、時間当たり燃料消費量
     Y=-486.938+7.334X1+0.153X2
    を得た。
  9. 安定時の時間当たり製品流量(X)と時間当たり電力消費量(Y)とに有意な相関が認められ、
     Y=54.344+0.045X
    の1次回帰式を得た。
  10. オーチャードグラス主体草地の季節毎の平均的な生産力を得て作図した。1番草ではヘクタール当り25~28トンの収量に達したが、再生草はヘクタール当り15トン程度で停滞し、その後は性質の低下を招いた。年間3回刈り、1部4回刈りの利用方式が適当と思われた。
  11. 降雨の影響からみた牧草収穫可能率を設定し、牧草収穫可能期間の可能日を週別に求めて期間中121日とした。
  12. これまでに得られた条件別の材料収穫利用率や収穫作業能率、製品生産能率などによって、週別の材料処理量を求め、1日16時間運転による100ヘクタール圃場の利用方式を得た。

第3章 製品の品質と栄養性
 材料条件との関係で、製品の成形性や栄養性を検討した結果は、次のとおりであった。

  1. 成形乾草は調製過程での栄養損失が少なく、一般に生産されている梱包乾草より、高蛋白質で、粗繊維は少なくなった。
  2. 成形乾草の養分組成は、1番草材料によるものでは暦日による一定の経時的な変化がみられたが、再生草によるものでは暦日経過と再生日数とが一致しないため、暦日による一定の経時的変化はみられなかった。
  3. マメ科草の混入割合が多いほど製品は高蛋白となった。しかし、この種の材料は生育段階の進んだ状態で利用されることが多いため、実際に生産された製品間の差は小さかった。
  4. 成形具合が良くて製品長が大きいものは、個体比重量や見掛け比重量、硬度とも大きく、また粗蛋白質が高くて粗繊維の低いものほど成形具合が良かった。
  5. つまり、1番草材料では生育段階の早いものほど、再生草では再生日数が短かくて枯葉の少ないものほど成形が良かった。また、マメ科草混入率の多いほど、特にラジノクローバの混入が多いほど成形が良かった。
  6. プレスダイ穴が大きくなるほど圧縮比が小さくなり、含水率15%以上の材料を用いて材料繊維の弾性を弱める必要から、製品含水率は高くなる傾向であった。
  7. 幾分遅れた2番刈のオーチャードグラス単播材料による成形乾草の可消化成分は、乾物当たりのDCPで6.0%、TDNで58.7%であり、重量比で28.5%のアルファルファ混入材料では、乾物当たりDCPで7.4%、TDNで61.3%であった。
  8. 材料草の種類にかかわらず、成形乾草の消化率は梱包乾草と比較すると、乾物やNFE、粗繊維で高く、粗蛋白質や粗脂肪で低かった。

第4章 県内導入施設の稼働状態
 県内に導入された施設の稼動状況を調査し、次のような特性や問題を明らかにした。

  1. 材料供給圃場の不良条件、あるいはフォーレイジハーベスタの能力不足や運搬車の機構の不適当や台数不足などにより、材料収穫の作業効率あるいは作業能率の低い例が多くみられた。
  2. 施設の平均的な乾燥成形能力は、材料含水率80%程度ではカタログ性能に対して80~90%であったが、コンベアあるいはオーガなどの許容流量が比較的に小さいものが多く、含水率の低い材料や切断長の不揃いなものでは、かならずしも乾燥能力に応じた流量をとることができず、効率低下となるものがみられた。
  3. 乾燥能力の大きさや機構の異なるものの、乾燥効率あるいは燃料効率の違いは明らかにできなかったが、年間実績による製品100kg当たりの平均燃料消費量は、重油の場合で各施設とも25~30kgで大差がなかった。
  4. 成形機は全施設ともシリンダタイプを使用しており、製品はハンドリング作業で比較的に崩れやすい性質を持つことが問題とされていた。
  5. 製品はバラ出荷で袋詰め製品より安価にされていたが、利用農家の希望から各施設とも袋詰め製品の出荷を主体としていた。
  6. プラントの運転時間は施設間で差が大きかったが全般に短かかったの材料収穫作業の効率化を図ると同時に、プラント操作の交代制などによって長期間運転のための就労体制の確立の必要が認められた。多くの施設では、配置人員に余裕がみられた。
  7. 材料草は各施設とも自家生産によるものがほとんどであった。全般に低生産圃場が多く、年次計画による更新から、高生産圃場の多回刈利用への移行が重要と思われた。

第5章 家畜(乳牛、肉牛)への給与効果
1 乳用牛への給与効果
 固形粗飼料の乳牛への給与効果について、場産キューブと輸入ヘイキューブを乾草と比較して嗜好性と泌乳効果を検討し、次いで場産キューブと滝沢公社産ウエハーの給与適量や生理的影響について検討した。その結果は次のとおりであった。

  1. 噂好性と泌乳性
    1)乳量、乳脂率、乳脂量
     乾草給与に比較し輸入ヘイキューブは乳量で19%の増加、脂肪率では3.2%の減少、場産キューブでは同様に乳量で11.6%の増加、脂肪率で4.5%の減少であった。乳脂量では、輸入ヘイキューブで15.2%、場産キューブで6.5%のそれぞれ増加であった。
    2)体重
     乾草給与に比較して、わずかに場産キューブでは2.8%、輸入ヘイキューブでは1.5%の増加であった。
    3)採食量
     一般に成形乾草の嗜好性は高く、90分採食量でも絶対採食量でも乾草に比較して成形乾草で多くなった。また場産キューブと輸入ヘイキューブでは、場産キューブがやや劣る傾向が見られた。
  2. 給与適量と生理的影響
    1)キューブ、ウエハーの給与適量では、乳量、乳脂率、採食量から見て、キューブではサイレージとの組み合わせ給与の中給区(サイレージ20kg+キューブ10kg)程度がウエハーでは単味給与の多給区(ウエハー15kg)程度が良い結果であった。
    2)長期給与による生理的影響では試験処理が平行比較法であり、キューブ区で1頭が試験期間中に乾乳する等乳量等について効果の比較は出来なかったが、慣行区に比べキューブ、ウエハー共にFCM乳量でもやや優る傾向が見られた。また臨床所見、血液、尿所見等でも慣行区に比べ特に問題となる所見は見られなかった。

2 肉用牛への給与効果

  1. 肉用牛に対し粗飼料キューブ単一給与は避けた方が良いと思われた。
  2. キューブの利用法は「稲ワラ+キューブ」の混合粗飼料方式、また「乾草→混合(稲ワラとキューブ)→乾草」のくり返し方式が良いと思われた。本研究で稲ワラは繊維としての利用でキューブが養分利用と考えた。
  3. 肉用繁殖牛に対しては価格面から給与はむずかしいと思われたが、肥育牛に対してはキューブの特性と価格、産肉性への効果との接点で利用され得る可能性がある。

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