岩手県畜産試験場研究報告 第4号(昭和49年2月発行)
草地を主体とする肉用牛生産技術体系確立に関する実証研究
渕向正四郎・蛇沼恒夫・平野 保・小野寺 勉・川村宏三・帷子剛資・漆原礼二・山口与租二郎・平賀幸夫・佐々木正勝・戸田忠祐・上野司郎・今 功・野村忠弘・小針久典・久根崎久二・落合昭吾・小原繁男・須田 亘・福士郁夫・勝浦 勉・佐藤公一・佐藤勝信・橋本 悳・相馬寛生・小山錦也・善林明治・加納睦雄・鈴木昌二・粟津隆一・吉根浩太郎・土屋英希・島崎昌三・伊藤房夫・工藤昌司
(結言より。一部省略)
わが国の肉用牛の繁殖生産は、稲作など他作目に複合した形態と濃厚飼料多給による良質肉生産により、その特色を発揮してきた。しかし、役肉兼用種から肉専用種に転換した今日、需要増加による価格堅調が続いてきたにもかかわらず粗飼料資源の乏しい平地農村の飼養戸数、飼養頭数共に減少が大きく、次第に山寄り地帯に生産地の立地移動がみられる。このような実態を踏まえて今後の肉用牛の素牛生産地帯は未利用土地資源の豊富な地域への発展が期待されている。とくに、東北地方はわが国の有力な発展地域としてすでに肉用牛に対する各種の振興対策が強力に打ち出されてきている。
この試験は、以上のような背景のもとに、積雪寒冷地帯の気象を克服しながら林業さえもその成生長速度から問題となっている耕作限界地を活用して肉用牛繁殖生産のための技術体系を確立しようとしたものである。もとより多頭飼養の経験がなく、この種の研究の歴史の浅いわが国の実状ではやや性急の感がないでもないが、山林地帯の農業の崩壊しつつあるひっ迫した現状に触れ、行政先行的な大牧場の出現を目の当たりにすると、技術開発部門としての試験研究機関自体も繁殖生産動向を予測した先行的な取り組みをすることがより早く問題解決の核心に接近できると判断したためである。
試験の進め方は、宮城を除く東北各県畜試と共同研究体制のもとに、岩手畜試は主に体系化に必要な組立技術実証に主眼をおき、他の畜試はそれにかかる主要な素材試験を分担した。
技術実証規模は、年間約300頭の肉用牛を繋養し、土-草-牛を結合させ、試行錯誤方式による総合的なアプローチにより普及適用性についての評価と問題点の摘出を行う手法をとった。年約300頭の実験規模は、わが国ではかって例のない規模であり、粗飼料を完全に自給し、繁殖から離乳出荷に至る生産実践を試験研究機関自ら行った点に特色がある。
得られた成果として、(1)母牛1頭当たり放牧地面積が牧草地0.35ヘクタール、野草地2.80ヘクタール、林内ササ地1.50ヘクタールを使用する条件で、成牛の放牧期間が240日と慣行にくらべ約100日延長できたこと。採草地は0.30ヘクタールの確保により冬季サイレージ主体の不断給餌が可能なこと。このような草地主体の飼養により摂取養分量の約95%が自給できることを明らかにしたこと。(2)牛糞尿は土地還元できること。(3)年間労働投下量は50時間以内で済み、画期的な節減になっていること。(4)まき牛繁殖は、慣行法の約2倍の繁殖効率を高め、受胎率が良好であること。(5)母牛1頭当たり年間子牛生産量は約150kgに達したこと。(6)年間ヘクタール当たり増体量は、牧草地約250kg、野草地12kgとなり、林業との複合利用に対する積極的な意義が認められること。(7)基本技術ごとに実証結果から適用指標を明らかにしたこと。(8)技術と経営経済的評価を基盤に、所得水準を明確にした草地を主体とする肉牛生産技術体系を明らかにしたこと。(9)素材試験の成果から実用化できる内容を整理したこと。などが主な成果である。これはまた、試験条件のきびしいことから安定下限指標と評価できると考察した。さらに、残された問題を整理摘出して、今後の研究課題として提示した。
これらを普及するための前提として過疎化の進む山村の個別農家にどのように結びつけるか、土地の確保をどうするか、牛、施設、機械などの投資負担をどうするか、価格安定や流通の改善など研究や普及ばかりではなく行政的に解決すべき点が多いが、本試験の到達した実証技術指導、技術体系、実用化技術を一つの起点として、今後一層わが国の土地に密着した肉用繁殖牛の生産技術水準の向上をはからなければならない。
さらに付言すれば得られた成果も残された問題点も生産にどのように関与するか、自然保護からみて問題がないか、などその重みづけによる取捨選択が必要となる。例えば山地は放牧適地が多いが、採草地が少なくしかも採草条件が不良である。越冬規模の決定には、このことの解決が最優先されなければならない。良質越冬粗飼料の大量安定確保を重視し、優良牛の導入確保、繁殖率の向上、分べん事故防止、子牛の増体促進、疾病予防などが生産性向上の主要な技術要件と考える。
家畜や土地生産の永続性を重視した研究では5ヵ年の試験期間は短か過ぎる。この試験では4~5産次までの分べんにとどまり、生産性も年率向上の途中で打ち切る結果となった。したがって、母牛の連産性や耐用の検討は全て今後に残されている。また、実用的な大量生産研究のために精度の高い能率的な新たな試験方法確立の必要性が痛感されてならない。
最後に実用化できる成果、参考にできる主要成果、残された問題などを一括表示して結びとする。
区分 |
実用化できる成果 |
参考にできる主要成果 |
残された問題 |
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放牧用草地の造成と利用維持管理 |
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貯蔵粗飼料の大量調製技術 |
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放牧と貯蔵粗飼料による繁殖牛の周年飼養技術 |
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多頭飼養における繁殖管理技術 |
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草利用を主体とする若令肥育 |
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総括 |
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