岩手県農業研究センター研究報告 第15号

ページ番号2004381  更新日 令和4年1月17日

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【報文】休眠特性の解明によるアスパラガス新作型の開発

山口貴之

 アスパラガス(Asparagus officinalis L.)は、ユリ科に属す多年草であり、若茎を食用する植物として、多くの国で営利栽培が行われている。国内では、主に4つの作型、「露地普通作型」「露地長期どり作型」「ハウス半促成長期どり作型」「伏せ込み促成作型」で栽培が行われているが、アスパラガスが持つ休眠性の影響により、11月の国内生産はできない状況にあった。また、12月から3月にかけての収穫を行う伏せ込み促成作型にあっては、秋季の休眠覚醒が順調に行われないことによる収量低下が起こっていた。一方、アスパラガスの休眠特性については、温度との関係が調べられていたが、既知の休眠に関する知見を用いても、現場での生産が安定しないこともあり、アスパラガスの休眠性について、より詳細に明らかにすることが求められていた。

 本研究は、不明な点が多いアスパラガスの休眠特性について詳細に明らかにするとともに、国内生産が不可能であった11月上旬からアスパラガスの生産が可能となる作型の開発を目指し、積極的な休眠制御を行うことによる作型開発を行った。

 本研究の成果は次のとおりである。

1 アスパラガスの休眠に関する基礎的研究

  1. 品種‘ウェルカム’の場合、休眠は10℃~20℃の温度により導入され、導入された休眠は、少なくとも、2℃~8℃および26℃~28℃の温度域に一定期間遭遇することによって打破される。5℃で休眠打破を行うために必要な低温遭遇日数は12日間以上、28℃で休眠打破を行うために必要な高温遭遇日数は4日間以上である。
  2. 休眠が打破された株は、根の乾物重が多いほど、萌芽する若茎の量が多くなり、根の乾物重と若茎の量は正の相関がある。しかし、休眠中の株は、根の乾物重が多くなったとしても、萌芽する若茎の量が少ない。
  3. 日齢が44日齢から195日齢まで、10日間隔で日齢が異なる株について、品種‘ウェルカム’の休眠が導入される温度である16℃と、休眠に関与しない温度である22℃に搬入し、その後の萌芽性を調査した。その結果、品種‘ウェルカム’および‘スーパーウェルカム’は85日齢までの株、また、品種‘PA100’品種は105日齢までの株は、休眠導入が可能な温度におかれても休眠しないことから、品種‘ウェルカム’および‘スーパーウェルカム’の85日齢までの株および‘PA100’の105日齢までの株は、休眠感応性を獲得していないと考えられ、日齢が浅いアスパラガスは、休眠する能力がないことが明らかとなった。
  4. 秋季のアスパラガスに対して、短日処理を行った結果、萌芽数や主茎長、最大茎径に、自然日長区との差は認められず、また、日長処理後の株を伏せ込んだ後の萌芽数や萌芽速度についても、自然日長区との差は認められなかったことから、短日条件は、アスパラガスの休眠に関与していないことが明らかとなった。
  5. 秋季のアスパラガスに対して、白熱電球による長日処理を行った結果、長日処理中の茎数や主茎長、最大茎径に、自然日長区との違いは認められなかった。また、生育中に茎葉を除去し、その後萌芽する若茎の本数を調査したが、自然日長区との差は認められなかったことから、長日条件は、アスパラガスの休眠に関与していないことが明らかとなった。従って、アスパラガスの休眠に日長は関与していないと考えられた。

2 人為的な休眠制御による11月生産技術の確立

  1. アスパラガスの休眠を制御し、伏せ込み促成栽培において11月上旬からの生産が可能となる作型を開発するため、人為的に茎葉の黄化を可能とする技術開発を行った。通常の伏せ込み促成栽培の場合、茎葉を除去してから株の掘り取りを行うが、茎葉を付着した状態で株の掘り取りを行い、圃場に1週間~10日程度静置することにより、茎葉の黄化が行われる。これによって、貯蔵根の糖度が上昇し、伏せ込み後の収量が増加する。
  2. 低温を利用した休眠打破技術によって11月からアスパラガスを生産する場合、慣行法で品種‘ウェルカム’の株養成を行い、9月下旬に茎葉を付着した状態で株を掘りとる。掘りとった株を、1週間~10日程度圃場に静置して茎葉の黄化を図る。茎葉の黄化後、茎葉を除去し、5℃の冷蔵施設で12日間以上低温処理を行う。これによってアスパラガスの休眠が打破され、慣行法で伏せ込みを行うことによって、11月上旬からの生産が可能となり、11月に、1株あたり86.9グラムの若茎を得ることができる。
  3. 高温を利用した休眠打破技術によって11月からアスパラガスを生産する場合、慣行法で品種‘PA100’の株養成を行い、10月下旬に茎葉を除去した後、株を掘りとる。掘りとった株を、28℃の恒温器で2日間高温処理を行う。これによってアスパラガスの休眠が打破され、慣行法で伏せ込みを行うことによって、11月上旬からの生産が可能となり、11月に、1株あたり79.5グラムの若茎を得ることができる。

 以上により、2つの異なる方法でアスパラガスの休眠を制御し、国内生産が困難であった11月からのアスパラガス生産を可能とする伏せ込み促成栽培の新作型を開発した。これにより、国産アスパラガスの周年供給が可能となり、生産者の収益性向上にも寄与できると考えられる。

【要報】黒毛和種去勢肥育牛における給与飼料中のNFC/DIP比と尿石症発症リスクの関連性

児玉英樹・神山 洋・米澤智恵美・鈴木強史・齋藤久孝・細川泰子

 黒毛和種去勢肥育牛における尿石症の発症を予防するため、給与飼料中のN/D比と尿石症発症との関連を明らかにすることを目的に試験を実施した。黒毛和種去勢牛23頭をN/D比6区6頭、N/D比5区6頭、N/D比4区3頭、N/D比6→4区7頭に配分して肥育し、膀胱結石の保有率や尿石症の発症状況を確認するとともに、定期的に血液と尿を採取し分析を行った。

 その結果、N/D比4区の2頭とN/D比6→4区の2頭、計4頭が尿石症を発症した。いずれも発症月齢は17~23か月齢と肥育中期以降であり、N/D比4の飼料を給与中であった。また、血液検査の結果から、BUNは肥育前期ではN/D比4区が他の区より有意に高く、肥育中期ではN/D比が低い程高くなった。さらに肥育中期にBUNが一度でも21mg/dl以上を示した牛の44.4%(4/9頭)が尿石症を発症した。また、尿pHは試験区間で有意な差は認められず、肥育全期間を通してアルカリ性で推移した。尿pHがアルカリ化した要因として、過剰なDIPによる血中アンモニア濃度の増加や給与飼料中の過剰なCaやDCADの高値が考えられた。

 以上の事から、肥育牛の尿石症発症予防のため、給与飼料中のN/D比は6程度が望ましく、N/D比の判定が難しい場合は、肥育中期にBUNをモニタリングすることが重要と考えられた。今後の課題として、適正なCa含量の飼料を用いて同様な試験を行うことでN/D比と尿pHおよび尿石症発症との関係がより明らかになるものと思われた。

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