岩手県農業研究センター研究報告 第9号

ページ番号2004387  更新日 令和4年1月17日

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【報文】非アロフェン質黒ボク土における有機物連用効果

葉上恒寿・高橋良学・佐藤 喬・中野亜弓・佐藤千秋・小田島ルミ子・新毛晴夫・小野剛志・多田勝郎

 岩手県の非アロフェン質黒ボク土露地畑土壌において、畜種混合堆肥(牛・豚・鶏ふん)を10年間、豚ぷん堆肥および鶏ふん堆肥を5年間連用して野菜の栽培試験を行った。その結果から、堆肥の施用量および種類の違いが作物の生産性や土壌の性質におよぼす影響を明らかにし、適切な堆肥施用法を検討した。
 畜種混合堆肥を化学肥料と併用した場合、連用とともに収量が増加した。特に40Mg、80Mgha-1施用した場合に高い収量が得られ、交換性塩基や可給態リン酸の増加、土壌の酸性化の抑制および下層土の改良効果などが認められたことから、化学肥料と併用した40Mg、80Mgha-1の堆肥連用は有効であると考えられた。
 しかし、連用年数が経過すると交換性カリや可給態リン酸が蓄積する傾向にあり、その場合は化学肥料を削減し、過剰な養分蓄積を防ぐ必要があると考えられた。豚ぷん堆肥および鶏ふん堆肥のみを施用した場合も収量が増加し、化学肥料代替栽培が可能だった。さらに、交換性塩基および可給態リン酸の増加、土壌の酸性化抑制に効果が認められ、豚ぷん堆肥および鶏ふん堆肥の連用は有効であると考えられた。しかし、連用年数の経過とともに交換性塩基や可給態リン酸が蓄積する傾向にあり、その場合は堆肥の施用量を削減し、過剰な養分蓄積を防ぐ必要があると考えられた。

【要報】水稲湛水直播栽培の播種期の違いによる収量・品質関連形質の特徴

日影勝幸・小田中温美

 2004から2006年の3カ年において、あきたこまち、ひとめぼれを用いて、湛水直播栽培の播種期の違いによる生育ステージ、収量及び玄米品質・食味関連成分の特徴について検討した。
 生育ステージについては、移植の早い作期と直播の遅い作期の生育ステージの巾は、3カ年の試験では、あきたこまちの出穂期で8~16 日、成熟期で15~27日、ひとめぼれの出穂期で9~17日、成熟期では13~21日となり、直播と移植を組み合わせることにより収穫適期巾の大幅な拡大の可能性が確認できた。
 移植と比較した、直播の精玄米重は、あきたこまちが84%、ひとめぼれが86%と有意な差が認められた。直播では、移植より出穂期が遅く、登熟期間中の平均気温が低下することから、千粒重が増加するが、移植に比べ一穂籾数が少なく、精玄米重の低下につながったものと考えられた。また、遅い時期に播種した直播では、穎花数確保のためのNSC(Nonstructural Carbohydrate)が制限要因となる可能性が推察された。
 直播では、移植と比較して、登熟期間中の平均気温が低下し、千粒重が重く、整粒歩合や味度値が高い傾向であった。食味関連成分では、直播で移植に比較し、玄米タンパク質含有率はやや低くなり、白米アミロース含有率はやや高まるが、播種期が遅い場合にも食味官能評価の粘りが、移植栽培より安定的に高い傾向であった。これは、直播で白米のα-1,4-グルカンの短鎖割合が安定して高い傾向であることが関与していると推察され、これらのことから、湛水直播栽培では、移植栽培よりも安定して良食味であることが示唆された。

【要報】南部かしわ(K系)におけるオカラ+ソバクズサイレージの肥育飼料としての給与法

佐藤直人・吉田 登・吉田 力

 岩手独自の特産肉用鶏である「南部かしわ(K)」について、2種類の配合飼料を不断給与した時の発育と産肉性を調査し、4週齢から仕上げ目標体重2.8kgに達するまで、体重とME摂取量の関係式や体重と正肉量などの関係式を得て、南部かしわ(K)の発育モデルを作成した。この発育モデルに基づき、食品製造過程で産出されるソバクズ、オカラの混合したサイレージの給与法を検討し、配合飼料給与と同等の発育、産肉性を得た。
 以上のことから、南部かしわ(K)の発育モデルに示された指標を基準として用いることにより、食品製造過程で産出される未利用の副産物について、南部かしわ(K)の肥育用飼料としてさらなる活用が期待できる。

【要報】ソバクズとオカラを混合したサイレージ給与が肥育豚の発育、肉質等に及ぼす影響

佐々木 直・吉田 力

 食品リサイクルの推進と豚肉の生産コストの多くを占める飼料費の低減、また、地域資源を活用した特色ある豚肉の開発を目指して、食品製造過程で発生するソバクズとオカラを混合、調製したサイレージを肉豚の肥育後期に給与し、発育、肉質等に及ぼす影響について検討した。
 供試豚はLWDの去勢で、肥育後期(体重70~110kg)に、ソバクズとオカラを混合、調製したサイレージ(水分36.9%、CP10.8%、TDN47.3%)を給与した区と、市販配合飼料(水分12.5%、CP14.7%、TDN77.0%)を給与した区の2区を設け、それぞれ8頭、7頭を供試した。サイレージはソバクズとオカラを混合割合原物重量比6:4とし、第二リン酸カルシウムを原物重量比1%添加、混合してビニール袋に20kg詰めて密閉し2週間貯蔵した。サイレージの発酵品質はpH4.2、VBN/TN 2.20で良質であった。
 その結果、1日平均増体重は、サイレージ区890グラム、配合飼料区920グラム、飼料要求率(乾物)はサイレージ区3.07、配合飼料区2.86で有意な差は認められず、同等であった。枝肉形質の背脂肪厚はサイレージ区2.2cm、配合飼料区2.0cmで有意な差は認められなかった。胸最長筋の粗脂肪含量はサイレージ区6.5%、配合飼料区3.3%であり、サイレージ区が有意に増加した(P<0.01)。
 以上により、ソバクズとオカラを利用した、地域の特色を生かし、環境にも配慮した特色ある豚肉の低コスト生産の可能性が見出された。

【要報】北上市在来サトイモ‘二子いも’組織培養苗に関する研究 第1報 地上部生育の経時的推移

阿部 弘・阿部 潤

 北上市在来のサトイモ系統‘二子いも’から茎頂培養による培養苗を育成し、圃場定植後の地上部生育を経時的に調査したところ、総出葉数と枯込葉数が特徴的な推移を示し、これまで経験的で、栽培者の感覚に依存していた生育ステージの把握を、より正確に行える可能性が示された。この調査は新たな出葉と枯れ込みを確認するだけの簡易な方法であり、今後、生育中の堀り上げ調査や培土・追肥試験と組み合わせることで、培養苗栽培技術の改善および慣行種芋栽培技術への応用が期待される。

【要報】北上市在来サトイモ‘二子いも’組織培養苗に関する研究 第2報 培土方法が生育および収量に与える影響

阿部 弘・阿部 潤

 北上市在来のサトイモ系統‘二子いも’から茎頂培養により育成した培養当代株を用い、畝形および培土回数の検討を行った結果、現地慣行の高畝、7月中旬1回培土よりも、6月下旬、7月中旬および8月上旬と3週間おきに培土を3回行ったほうが、収量品質に優った。側芽処理についても検討したが、側芽の抑制は認められたものの、収量品質面で効果は得られなかった。今後は、平畝を基本とし、培土の時期、回数および方法を更に検討することで、実用的な技術に発展することが期待される。

【要報】北上市在来サトイモ‘二子いも’組織培養苗に関する研究 第3報 培養苗を用いた深植え用苗の試作とその栽培特性評価

阿部 弘 ・阿部 潤

1 小型ポット苗の試作とその栽培特性評価

 従来の培養容器から直ちに温室で9cmポットに鉢上げして遮光を行う育苗法に対して、室内での水耕順化を経てから温室で6cmポットに鉢上げし、非遮光で籾殻被覆を行う育苗法を検討した。後者の育苗法は苗質の揃いがよく、地上部生育の様子からも慣行の9cmポット苗に劣らなかった。

2 ロングポット苗の試作とその栽培特性評価

 培養苗の鉢上げにロングポットを用い、特殊な育苗を行うことで大型の苗を育成した。定植時の植付け深さを比較したところ、収量品質とも深植え区(20cm)が浅植え区(10cm)に優った。深植え区では、1株から通常1個あるかないかのAL球を3個着生した株があった。

【資料】北上市在来サトイモ‘二子いも’のルーツに関する仮説

阿部 弘

 岩手県北上市二子町に伝わる在来サトイモ品種‘二子いも’のルーツおよび品種分類上の位置は、産地である二子町においても明らかではない。そこで、各種文献調査を試みたところ、‘二子いも’が黒軸群に分類されることが明らかとなった。ルーツについては、明らかにすることはできなかったが、現時点の調査結果を整理し、とりあえず以下の仮説を提示する。今後、これらを検証する過程で、‘二子いも’のルーツが明らかとなるよう期待する。

  1. (仮説1)‘二子いも’は、江戸時代が安定期に入り、河川流通が盛んになった約300年前に、江戸方面から北上川を遡上してきたか、四国・京都方面からの海路と、山形・宮城経由の陸路をつないで、二子町に伝来したのではないか。
  2. (仮説2)‘二子いも’は東北地方で一般的な土垂群に比べ、株当たり収量が低く、約300年前の同時期に両品種が伝わったとすれば、二子町のみが‘二子いも’を選択したことが説明できない。従って、‘二子いも’の二子町への伝来は、現在定説とされている約300年より以前に遡るのではないか。
  3. (仮説3)‘二子いも’組織培養苗の栽培特性とその経年推移を追跡評価したところ、培養当代株の子芋を越冬貯蔵した培養1作球株が、著しい大型化を示した。こういった現象は、‘土垂’など他の品種では報告がなく、‘二子いも’特有の現象と思われた。筆者の推測では、‘二子いも’はもともと寒冷地に向いているのではなく、本来は暖地系の品種であり、徐々に寒冷地適応したのではなく、短期間に二子町に伝わり、強い生育抑制を受けて、現在の‘二子いも’の特性が形成されたのではないか。

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