《ルポ・奥州》繁殖和牛完全預託制度の確立 〜奥州市江刺区〜

ページ番号2003351  更新日 平成22年4月1日

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ルポルタージュ産地・人を訪ねて 2010年4月号

繁殖和牛完全預託制度の確立

夏期放牧から冬期預託、周産期預託まで

奥州市江刺区

はじめに

奥州市江刺区(旧江刺市)では昭和30年代から本格的に和牛の飼養が始まり、岩手県内における和牛子牛の主産地として発展を遂げてきました。しかし、ピーク時に8,000頭を越えた江刺区の繁殖和牛頭数も現在3,000頭台まで減少するとともに、生産者の48%が60歳を越えるという高齢化にも直面しています。

このような状況下で、和牛繁殖農家を支える体制(施設)の整備も進められており、従来から和牛繁殖農家が預託してきた「公共牧場」や「キャトルセンター」に加え、分娩牛の受け入れを行う「周産期センター」が平成21年に稼働しました。

今回は江刺区における「繁殖和牛の完全預託制度が確立した」ともいえる取り組みについて紹介します。

公共牧場

奥州市江刺区には「阿原山(あばらやま)牧場」「種山高原牧野」の二つの公共牧場があり、江刺区の繁殖牛を中心に合計約500頭が春から秋まで放牧されています。
阿原山牧場は(社)江刺畜産公社が運営する公共牧場で、放牧事業と採草販売事業を行っています。
種山高原牧野は旧県営種山牧野の運営を引き継いだ種山高原放牧事業運営協議会(関係市町、農協、県)が牧場の管理を(社)江刺畜産公社に委託し、放牧事業を実施しています。

写真1
種山高原牧野放牧地
写真2
阿原山牧場
写真3
阿原山牧場放牧地

キャトルセンター

JA岩手江刺は生産者の労力低減や増頭対策のためにキャトルセンターを整備し、平成18年4月に受け入れをスタートしました。県内でも本格的なキャトルセンターの先行事例として注目され、公共牧場との連携を図りながら地域の畜産振興の中核的施設として位置付けられました。受け入れは繁殖牛及び3か月齢以上の離乳子牛を対象としており、子牛の育成管理や親牛の繁殖管理等預託農家の所得に大きく影響する部分を担っているため、技術向上への取り組みも重要となります。JAでは預託農家からの信頼を得るために、施設利用率向上に係る検討会を設けて、関係機関を交えた技術改善の検討と実践を行っています。

写真4
キャトルセンターで越冬する繁殖牛
写真5
江刺キャトルセンター
写真6
江刺キャトルセンター子牛預託牛舎内部
写真7
江刺キャトルセンター受入検査

周産期センターの開設

江刺区では既存公共牧場とキャトルセンターの整備により、離乳〜分娩前の預託体制が整い、生産者からは残る周産期の預託に対する要望が出てきました。

また、生産者の高齢化により、病気やけがによる一時的療養が一気に離農に直結し、生産基盤の弱体化を招く恐れが出てきました。

そこで、(社)江刺畜産公社が奥州市、JA岩手江刺の協力を得て、旧江刺種雄牛センターの種雄牛舎及び間接検定牛舎を改築し、平成21年11月に周産期センターを開設しました。

分娩〜離乳という最も事故発生リスクの高いステージの預託を受け入れるために、胆江NOSAI獣医師や県南家畜保健衛生所の支援を受けながらのスタートとなっていますが、職員の努力により現在まで事故の発生が無く順調に受け入れが進んでいます。

利用農家の事情はやはり、突発的な入院等によるものが主で、入院と付き添いにより、家で分娩や哺育、育成等の飼養管理が無理なケースが多く見られます。

写真8
旧江刺種雄牛センターを改築し、周産期センターに
写真9
周産期センター開所にあたり関係機関で意識統一
写真10
周産期センターで誕生した子牛

産地を守り、更に発展させるために

JA岩手江刺ではたい肥センターを平成13年に開設しており、繁殖和牛の預託施設と併せて畜産農家を支援する体制は県内でもトップレベルにあると考えられます。

しかし、現在の子牛価格はピーク時よりも1頭あたり10万円以上下落しており、畜産農家の経営を圧迫するとともに、飼養頭数の減少傾向も止まっていない状況にあります。このような生産環境においても、公共牧場やキャトルセンターを利用しながら畜産農家が規模拡大を図っていける体制(攻め)や、周産期センターにより高齢者でも安心して畜産経営を継続できる体制(守り)を整備し、江刺地域が産地を維持していることは特筆すべきことです。

奥州市、JA岩手江刺、(社)江刺畜産公社がタッグを組んで、和牛産地を維持発展させていくため、この完全預託体制の構築が有効な手段として機能していくことが期待されます。

(奥州農業改良普及センター山本公平)

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