《ルポ・八幡平》TMRの基本は粗飼料生産 〜農事組合法人岩手山麓ディリーサポート〜

ページ番号2003350  更新日 平成22年3月1日

印刷大きな文字で印刷

ルポルタージュ産地・人を訪ねて 2010年3月号

TMRの基本は粗飼料生産

農事組合法人岩手山麓ディリーサポート

写真:収穫の様子1
秀峰岩手山を背景に1 番草の収穫

コントラクターで牧場の労働力を軽減

酪農家の家族労働力は1〜2人。酪農を継続していくために、「粗飼料生産を組織化したい」との思いから平成17年に酪農家10戸が(農)岩手山麓ディリーサポート(以下、組合)を設立。組合員は、組合に粗飼料生産、TMR(完全混合飼料)製造を任せ粗飼料生産にかかる個々の労働力の軽減や機械投資の圧縮を図り、労働力を牛舎管理に集中させることで酪農経営の継続、産乳生産性の向上を目指しています。

組合の業務はTMRの製造と、TMR製造の原料となる牧草、飼料用とうもろこしの作付けと収穫、さらに農業者、JAからの牧草、飼料用とうもろこしの作業受託(コントラクター)です。作業するほ場の面積は、組合員の所有地、借地のほか、公共牧場等JAを通した作業受託地を合わせると400haを超えます。

組合での作業は正職員3名とパート職員7名が主体で行う体制を整え、10名の組合員は補助的に粗飼料生産に携わっていますが、総務、機械設備、TMR、ほ場管理の4部門に分かれて組合の運営を行っています。

写真:運搬の様子
大型ダンプが伴走、牧草を運搬する
写真:牧草
牧草もカットしてサイロ詰め
写真:詰め込みの様子
コンクリートバンカーサイロへの詰め込み

ほ場管理部門はTMRの要。いかに良い原料を収穫するか!!

全国的にも輸入乾草を主体にTMRを製造する体系が多い中、組合が製造するTMRは、牧草、飼料用とうもろこしとも組合で収穫したものを原料にしています。

TMRの品質を向上、安定させるには、原料となる粗飼料の品質向上が不可欠であるため、ほ場管理部門の4名は、生産性の向上と品質の安定、資材費の削減を目標に、毎年、土壌分析や粗飼料の成分分析結果を基に肥料内容の再検討、作業の見直し等に取り組んでいます。

飼料用とうもろこしの収量を上げたい

飼料用とうもろこしは3地区で32haに作付けしています。

そのうちバンカーサイロに近く、まとまった面積のF地区(17ha)は最も収量を期待したい地区ですが、岩手山のふもとで標高530m、火山灰土壌、牧草から飼料畑に転換して間もないほ場ということもあり、生育が思わしくありませんでした。土壌分析の結果からもリン酸、カリウム、カルシウム、マグネシウムともに土壌改良の必要があり、必要な土壌改良資材の合計は400万円と試算されました。

「飼料用とうもろこしの生育を良くし、収量を上げたい」
それには土壌改良が必要でした。お金を掛けずに土壌改良する方法を、ほ場管理部門の4名と職員が話し合いを何度も重ね、地元にある安い資材を使ってみることにしました。

炭化鶏糞って使っていいの?メリットはある?

鶏糞を炭化した炭化鶏糞は、窒素分はほとんど肥効がありませんが、1tあたりにリン酸45kg、カリウム35kg、カルシウム140kg、マグネシウム15kgが含まれていると試算され、F地区の飼料用とうもろこし畑に不足する成分を総合的に含んだ資材といえました。

炭化鶏糞は、株式会社第一ポートリーファームが岩手町の施設で製造しており、バラで3円/kgと既存の土壌改良資材を使った場合の1/5以下の価格と安く、なおかつ散布作業が1度で済むメリットがありました。そこで、土壌改良のために、炭化鶏糞を秋に施用し土壌混和して来春の播種に備えました。

写真:散布の様子
炭化鶏糞の散布
写真:種苗
土壌改良前は発芽が不揃いだった

飼料用とうもろこしの生育は順調

飼料用とうもろこしの播種前に行った土壌分析結果では、pH、塩基の改善が認められ、炭化鶏糞施用前の土壌に比べて発芽試験の結果も良く、生育の改善が見込まれました。

さらに、春肥は、たい肥由来の肥料成分も考慮したうえで不足する窒素分のみを補うこととしたため、尿素のみを購入すればよく、春の肥料代は昨年度の1/4に抑えることができました。

7月の台風や曇天の影響で、飼料用とうもろこしの生育にとっては不利な天候でしたが、坪刈り調査では前年と同等の収量を得ることができ、成分分析値も問題のないものとなっています。

牧草の施肥改善、どこまでできる?

土壌分析や牧草の成分分析の結果から、牧草地にはカルシウムとマグネシウムの施用が望まれました。しかし、施肥が必要な200haの牧草地に、化学肥料と石灰を春先に散布して回るのは、オペレーターの確保、作業機の配置、燃料代などからいっても無理な提案でした。

しかし、くみあい肥料株式会社に相談したところ、既存の銘柄のBB草地212号とてんろ石灰を同量ずつ混合した「八幡平151号」という肥料を作ってもらえることになり、供給を受けることができました。散布量は化学肥料のみの施用より2倍量になりますが、何より1回の散布で済むので効率的になりました。

写真:収穫の様子2
飼料用とうもろこしの収穫
写真:牛舎
組合員は牛舎管理に集中できるようになった
写真:懇談会
毎年、市、全農等と懇談会を開催
写真:視察の様子
北海道内のTMRセンターを視察
写真:土壁バンカーサイロ
土壁バンカーサイロの建設でコスト低減をねらう
写真:農事組合法人岩手山麓デイリーサポート新年会
組合員とTMRセンターのスタッフ、関係機関

粗飼料は商品である

平成21年度は、晴天が長続きせず牧草の収穫でも大変苦労しました。調製時間の短縮と低コスト、高品質をめざして設置した土壁バンカーサイロ5基を使い始めたこともあり、TMRの主体となるバンカーサイロでの調製は順調だったものの、ロールベール体系での収穫は課題が残りました。

コントラクターとして収穫したロールベール牧草は、受託先のJAを通じて地域の畜産農家に供給される「商品」です。天候が安定しない年ほど、購入希望者からは良質粗飼料が求められます。昨年の天候から得た教訓を品質の向上に活かそうと、今年からは、ロールベール体系の作業班を2班に増やし、適期刈り取り、短時間での調製を徹底する方針です。
ディリーサポートは、より粗飼料の品質を高め、TMRの安定生産と地域の畜産農家に喜ばれる商品作りをめざしていきます。

(八幡平農業改良普及センター畠山公子)

このページに関するお問い合わせ

八幡平農業改良普及センター岩手町駐在
〒028-4307 岩手県岩手郡岩手町大字五日市9-48
電話番号:0195-62-3321 ファクス番号:0195-62-1377
お問い合わせは専用フォームをご利用ください。