グリーンツーリズム物語
交流は生き方の交換。いろんな人が来るから楽しい。
そば打ちで人生を広げたお母さんたち―――【成谷自然食の会】

「そばの匠館」でひと休み
 久慈市山形町(旧山形村)に来ると必ず寄ってみたくなるところの一つが「そばの匠館」である。むらの中心部から東南におよそ8km、遠別川沿いに県道が走り、30戸の家が点在する成谷集落。その集落の中心に、ちょっとおしゃれな木造の建物「そばの匠館」が建っている。 
 バスさえ通らなかったこの地域に、多くの人を呼ぶきっかけになった「そばの匠館」が建設されたのは平成9年のことである。そもそもは、働き者のお母さんたちの奮起から始まった。夏は農作業で忙しいお母さんたちは、冬場も黙ってはいられない。何か自分たちでできることはないかと模索していた時、この地域は昔からそばの産地だったことに思い至り、そば打ちを始めることにしたのだ。手始めに年越しそばを打って集落の人たちに配ったところ、これが好評だった。
 長い間、地域に継がれてきた郷土料理が喜ばれることを知ったお母さんたちは平成6年に「成谷自然食の会」を発足。農閑期を利用して郷土食の普及と販売に、本格的に取り組むことになった。そば打ち50年という会長の七ツ役トミさんをはじめ、集落にはそば打ちの名人が多い。郵便局とタイアップして始めた「ゆうパック」は平成7年から開始したが、新聞に1回掲載しただけで口コミでどんどん広がり、今では年の暮れの一大行事になっている。
 そば打ちの工房であり、交流の拠点である「そばの匠館」は、そば打ちの体験ができるほか、囲炉裏端で郷土料理のまめぶ、豆腐田楽などを味わえるようになっている。そば打ち体験は予約制で、原則として10名からにしているが、ここのお母さんたちはやさしいものだから、「せっかくこんな遠くまで来ていただいたのだから、ただ帰すわけにはいかない」と、希望があれば10名未満でも受け入れている。
 お母さんたちに、そば打ちの指導を受けながら日々の暮らしの話などをし、汗を流したあとは、自分で打ったそばと一緒に、まめぶ、川魚、山菜など自然の香りがぷんぷんする食事をいただく。そば好きならずとも、心が安らぐひとときである。

泊まり客の受け入れも視野に
 ひと頃は、減るばかりだったそばの作付けも、最近は増加傾向にあるという。「天候のせいで獲れない年もありますが、足りない時は隣の小国地区からも買っているので、全部地元産で間に合います」と、会長の岩脇ヨシエさんは胸を張る。 
 岩脇さんは地域を代表するほうれんそう農家であるが、「成谷自然食の会」の活動も中心になって積極的にこなしている。「農業は大変だとばかり思っていたけれども、土いじりしながら、全国の人たちとお会いすることができる。自分のやりたいことは、こういうことだったのかもしれない」と思うからだ。
 そんな岩脇さんにとって、数年前、印象に残る出来事があった。愛知県の男性から、1週間泊り込みでそば打ちを習いたいという申し込みがきたのだ。ゆうパック用のそばづくりで盛んに忙しい時期だったので、「とても寒いし、山しかない所ですが、それでも良かったらどうぞ」と答えておいた。ところが、数日後、本当にその男性は来てしまったのである。
 「そうでなくても忙しいのにと会員からも言われましたが、お出でになった限り引き受けなければならなくて」と岩脇さんは今さらながら苦笑い。岩脇さんは自宅の一室を提供し、食事も特別扱いするのではなく家族と一緒に食べるようにした。懇切丁寧に教えるというわけにはいかなかったが、男性は会員のそば打ちを見よう見まねで覚え、短期間に上達して仕舞いにはゆうパックづくりの強力な助っ人になった。
 「第二の人生はそばづくりと意欲満々。私もその思いに惚れました」と岩脇さん。家の周りに広がる畑を見て、男性は「いいな、野菜をつくる畑があって」と羨ましがった。そんな姿を見て、「いろんな生き方があるんだな」と実感したという岩脇さんは、「お互いにいろいろな生き方を感じ合えるのが、交流の楽しいところではないか」と言う。
 その経験を通して、今後は素泊まりだけでもできないかと考えている。食事の世話までは難しいけれども、設備の整った「そばの匠館」に泊まれば、獲りたての野菜を届けてあげることもできる。
「受け入れする前は大変だと思うけれども、体験を終えてお送りする時はいつも良かったなと思う。大変なことより喜びの方が大きいんです。本を読む時間もない毎日の中で、ここに居ながらにしていろいろ勉強できるし、外のことを知ることができるのが一番いいですね」
地域に古くから伝わる食文化を発信しながら自分たちの人生も思わぬ方向に転がり出した村のお母さんたち。忙しい中にも充実感があるから、みんな生き生きと輝いているのだろう。


成谷自然食の会
そば打ち体験ができるほか、囲炉裏端で郷土料理のまめぶ、豆腐田楽などが味わえます(要予約)。

そばの匠館
久慈市山形町霜畑9-25
TEL 0194-75-2315
FAX 0194-75-2057

成谷自然食の会(会長:岩脇)
久慈市山形町霜畑10-68
TEL 0194-75-2034
久慈地方振興局 農政部
〒028-8042 岩手県久慈市八日町1丁目1番地 TEL.0194-53-4983
Copyright 2006 kuji Green Tourism. Co.,Ltd All right reserved.