ミツマタヤリウオ
平成14年5月に岩手県水産技術センター所属岩手丸の着底トロール調査により、岩手県沖合の水深約500mから採集されました。
標準和名:ミツマタヤリウオ(ワニトカゲギス目/ミツマタヤリウオ科)
学名: Idiacanthus antrostomus
地方名:なし
体長:25cm

【主な特徴】
(1) 体は細長く、全身真っ黒な皮膚でおおわれ、鱗がない
(2) 頭部は小さく、口が鰓蓋近くまで裂ける
(3) 口にはキバ状の歯が並ぶ
(4) 下あごには先端に発光器を備える1本の長いひげがある
(5) 体の腹側には小さな発光器が胸部から尾びれの前まで並ぶ
(6) 胸びれはない
【その他特記事項】
北太平洋の温帯域に広く分布し、水深400〜800m付近の中層に生息しています。いわゆる深海魚の仲間ですが、岩手県はおろか、全国的にも滅多にみることのできない珍しい種類です。
標準和名のミツマタヤリウオは、その生い立ちははっきりしていませんが、鋭いキバ状の歯を備えた大きな口と細長い体形、そして幼魚時期の特徴的な形からつけられたと思われます。学名のIdiacanthusは、ギリシャ語で「特殊な」を表すidiosとギリシャ語で「トゲ」を表すacanthaから成り立っていて、キバ状の鋭い歯を表したものと思われます。さらに、種名を表すantrostomusは、ギリシャ語で「空洞」を表すantronとギリシャ語で「口」を表わすstomaから成り立っていて、小さな頭部に裂けた大きな口を表しています。つまり、鋭いキバを持った大きな口を持つ魚であることを学名が示しています。
この種類は、子供の頃、非常に奇妙な形をしています。体は親と同じように細長い形をしていますが、眼が左右に飛び出していて、まるで「かかし」のような格好をしています(図1)。和名は、おそらくこのような奇妙な格好が「三つ叉(頭と左右の眼)の槍」を連想することから付けられたのでしょう。
また、この種類は、雌が50cmにも達するのに対し、雄はわずか数cm程度にしかなりません。こんなに大きさの違う雌雄がどうやって出会い、産卵するかは、未だによくわかっていません。
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| 図1 ミツマタヤリウオの稚魚 (http://www.chiba-muse.or.jp/から引用) |
図2 ハダカイワシの発光器 |
【ちょっと一言】
このコーナーでは、多くの方に図鑑を利用していただくために、図鑑中で用いられる魚に関する用語を解説しています。
ミツマタヤリウオは、体が真っ黒で、口が大きい、といった、私たちがイメージする典型的な深海魚です。では、深海魚とはどのような魚を指すのでしょう。
実は、深海魚という言葉は、どの魚を指すか決められている訳ではなく、一般に水深200mよりも深いところに住む魚たちを指す総称です。ですから、この水深帯にいるタラやキチジなども広い意味で深海魚ということができるでしょう。ただ、私たちがイメージする深海魚は、ハダカイワシ類やチョウチンアンコウ類など、全身真っ黒で大きな口を持ち、眼はないか、逆に大きな眼を持つ魚たちでしょう。これらの深海魚は、光の届かない深いところに普段いるため、他の魚にはない特殊な特徴を持つ種類が大部分です。その一つは、ハダカイワシやミツマタヤリウオにみられるように、体のあちこちに発光器と呼ばれる光を放つ器官を持っていることです(図2)。この発光器は、光を放つバクテリアの働きや化学反応によって光を放っています。一般に、深海魚は、この発光器を、餌を探すため、あるいは仲間を認識するために使っていると言われています。私たちが、深海魚の種類を見分ける方法の一つとして、発光器の並び方や数を調べることがあげられます。深海魚たちは、私たちと同様、真っ暗な深海で、ちょうど私たちが夜空に星座をみるように、わずかな光を頼りにお互い仲間を識別しているのでしょう。(漁業資源部 後藤 友明)