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bQ6    2009年3月
漁場保全部による貝毒発生監視調査の様子です

今号の特集も前号に引き続き、監視、追跡のために行う観測や調査「モニタリング」です。今号は底魚資源、貝毒プランクトンそして増養殖場のモニタリングを取り上げました。
 写真の貝毒発生監視調査によるプランクトン調査結果は、調査終了後に直ちに、関係機関に情報提供し、的確な貝毒の監視および安全な貝類の流通に活用されています。

《特  集》 「モニタリングについて(bQ)」
   田老地区大規模増殖場生物生息量調査について
   平成20年に発生した貝毒について(貝毒発生監視調査)
   底魚資源の調査について
《成果情報》
   食用化に向けたイサダの漁獲後の管理と加工原料の調整方法について
《トピックス》
   岩手県沿岸のマナマコ生息量について 
   定置網におけるサバ類の漁獲動向について 
《シリーズ》
    岩手の海に現れた珍しい魚  ―イレズミコンニャクアジ―
《編集後記》

1 田老地区大規模増殖場生物生息量調査について
増養殖部 野呂 忠勝
【はじめに】
 本県のアワビ漁獲量は全国一位であり、重要な磯根資源ですが、かつて年間1,000トン台の水準であったものが、昭和56年以降は300〜600トン台と低迷しています。その資源の回復を目指し、水産技術センターでは、種苗生産や増殖に関する研究に積極的に取り組んでいます。近年のアワビ漁獲量は、天然貝100〜400トン/年、放流貝40〜130トン/年と、放流貝では毎年800万個〜900万個放流されている人工種苗が漁獲対象資源に安定的に添加している一方、天然貝では漁獲対象資源量が大きく変動し、そのことが漁獲量の年変動に影響を及ぼしています。したがって、アワビを持続的かつ効率的に利用するためには、資源の変動要因を明らかにし、科学的根拠に裏打ちされた資源管理の実践が必要です。
 そこで、水産技術センターでは田老地区大規模増殖場を定点とし長年にわたり調査を実施し、アワビ資源の変動要因の解明に取り組んでいます。

【調査方法】
 田老地区大規模増殖場は昭和52〜55年度に造成された漁場です。水産技術センターでは昭和59年以降、毎年10月に本増殖場を定点とし、アワビ、ウニとその餌料海藻の生息量を潜水し調査しています。これらの結果と同地先の観測水温を基にアワビ天然資源の変動要因を解析しました。

【調査結果】
 アワビは夏から秋に生まれますが、最初の冬季に親潮が接岸し、水温が5℃以下に低下すると稚貝は大きく減耗し、翌秋の1歳貝の出現量は極めて少なくなることが分かりました(図1)。これが複数年にわたり繰り返されると、アワビ資源量は大幅に減少します。
 餌料環境が良好な期間に成長したアワビは、餌料環境が不良な期間に成長したアワビに比べて、漁獲対象サイズ(殻長9p)に2年半も早く到達していることが分かりました(図2)。この2年半の差で、アワビは5割以上減耗するものと推察され、餌料がアワビ資源に及ぼす影響は大きいことが分かります。なお、アワビの主要餌料であるコンブの生育量は、冬季水温の高低やウニを中心とする植食性動物の生息量に影響されることも明らかとなっています。
 したがって、アワビ漁獲量(漁獲対象資源量)の維持には、人工種苗放流とともに餌料対策が重要です。

【今後の課題】
 今回紹介した資源変動要因の他、開口時のアワビ肥満度の変動要因も明らかになりつつあります。これらはいずれも長年にわたって定点調査を実施しデータを蓄積したことによって明らかになってきたものです。さらに、年変動が著しいアワビ資源の変動要因の全体像を明らかにするには、今後も継続して資源動向を把握する必要があることから、水産技術センターでは今後も調査を継続していきたいと考えております。
図1 冬季水温とアワビ殻長組成(殻長組成の黒色は1歳貝を示す)
図2 餌料環境が良好な期間と不良な期間を経過したアワビの成長差
  (H3:餌料環境良好期間経過、H17:餌料環境不良期間経過)
2 平成20年に発生した貝毒について(貝毒発生監視調査)
漁場保全部 加賀 新之助

【はじめに】
 二枚貝やホヤはある種類のプランクトンを食べると毒化することが知られています。そこで当センターでは貝類の毒化時期における海況および水質の変化とプランクトンの発生状況を調査することにより、貝類等の毒化原因となるプランクトンおよび毒化状況の解明に取り組んでいます。平成20年、本県沿岸では貝毒による養殖生産物の出荷自主規制が広域化・長期化しましたので、その概要についてお知らせします。

【調査方法】
 山田湾、大船渡湾および沿岸地区の漁協が実施している調査定点において、プランクトンおよび貝毒量の変化を調査しました。

【調査結果】
1 下痢性貝毒
 本県沿岸では、例年7月頃に毒化が見られますが、昨年は4〜5月と7月の2回、下痢性貝毒によるホタテガイおよびマボヤの毒化(マボヤの毒化は本県沿岸では初めて)が見られました。4〜5月に見られた毒化の原因はディノフィシス属のアキュミナータで(写真1)、最高発生数は沿岸中部において海水1リットル当たり1,400細胞でした(図1)。調査船岩手丸による海洋観測の結果、アキュミナータは本県沿岸に流れ込んだ親潮の冷たい海水中(図2)に多く存在していました。7月に見られた毒化の原因はディノフィシス属のフォルティで(写真2)、最高発生数は海水1リットル当たり170細胞でした。このプランクトンはアキュミナータと同様に湾の外から流れ込んできたものと考えられます。

2 麻ひ性貝毒
 本県沿岸では、6月と11月に国の規制値(4 MU/g)を大幅に超える麻ひ性貝毒によるホタテガイの毒化が見られました。6月に毒化したホタテガイは12月までの半年間規制値を下回らずに長期化しました。6月の毒化の原因はアレキサンドリウム属のタマレンセで(写真3)最高発生数は海水1リットル当たり9,110細胞でした。タマレンセは湾内の底泥に確認されている種(写真4)から発芽します。その後、海水中で増殖しこのプランクトンを食べたホタテガイが毒化することが知られています。

【今後の課題】
 麻ひ性貝毒は、毒の多発化や広域化が指摘されています。また、無毒のプランクトンが混在して計数される危険性があるので有毒プランクトンを1細胞ずつ迅速に同定する技術の開発とともに、水塊の毒性を直接測定してホタテガイ毒性との関連を明らかにする、研究をしています。下痢性貝毒は、有毒プランクトンの毒組成により、毒化し易い生物種が異なることが示されたので、本手法を用いて毒化予測精度の向上に努めます
写真1
ディノフィシス属の
アキュミナータ
写真2
ディノフィシス属の
フォルティ
写真3
アレキサンドリウム属の
タマレンセ
写真4
アレキサンドリウム属の
タマレンセの種
3 底魚資源の調査について
漁業資源部 後藤 友明

 岩手県沖合にはタラ類、カレイ類、キチジ・メヌケ類など様々な魚介類が分布しており、重要な漁業資源となっています。これらは、海底付近に分布していることから、底魚類と呼ばれています。本県では、刺網や延縄、底びき網などで底魚類を漁獲しており、これらは漁船漁業の中でも大きなウェイトを占めています。一方、底魚類の資源は、イワシ、サバ、イカ類などの回遊魚とは異なり、大きな移動をせずに同一海域で一生を過ごすものが多く、乱獲によって資源が枯渇しやすいと言われています。岩手県水産技術センターでは、特に沖合域に分布するタラ類やキチジの資源量を推定してその動向を評価するとともに、より効果の高い資源管理の手法を見いだすことを目的として、調査船を用いた資源調査を行っています。本報では、この調査の一部についてご紹介します。

 岩手県水産技術センターでは、春、秋、冬の3期間、漁業指導調査船「岩手丸」で着底トロールネットを用いた底魚類の採集調査を本県沖合の水深200〜500mで行っています。この調査では、網を曳いた区画に分布する魚類を採集して種ごとに計数・計量して、単位面積あたりの平均分布密度を求め、その値を海域面積で引き延ばすことにより資源量を推定しています(図1)。さらに、耳石を用いて年齢査定を行い、年齢ごとの資源量を求めることにより、その種類の資源動向を評価しています。
 その一例として、この調査から求められた本県沖合海域に分布するマダラの資源動向を図2に示します。本県沖のマダラ資源量は、数千トンから2万トン程度で大きく変動していると推定されました。近年では、平成10年生まれのほか、平成16年生まれの資源が非常に多く本県沖合海域に加入したとみられています。一方で、平成19年生まれの資源は極めて少ないと推定されています。このことから、現在は平成16年生まれの5歳(体長約60cm、約4kg)の資源を中心として分布していると見られますが、漁獲され始める平成19年生まれの2歳魚(体長約30cm、体重約1kg)はほとんど分布が認められていません。マダラは冷水を好むため、マダラ資源の増減は、浮遊期間に相当する春季の水温変動に大きく左右されていると考えられています(図3)。特に水温上昇の著しかった平成19年は本県沖でのマダラ資源減少の一要因となっているものと考えられています。
 このことから、本県沖のマダラ資源は減少傾向にあるため、資源を持続的に利用していくためには、少ないながらも分布する若齢魚の保護が重要です。

食用化に向けたイサダの漁獲後の管理と加工原料の調整方法について

利用加工部 田老 孝則

イサダ(ツノナシオキアミ)は、ほとんどが冷凍ブロックに調製され、魚類養殖や遊漁等の餌として県外へ出荷されていますが、宮城県ではイサダを原料にした各種加工品が加工されており、本県の水産加工業者も加工原料ととして着目しています。イサダの食用化により単価の上昇が見込まれることから、当センターで食用化に向けたイサダの加工方法について検討したので紹介します。

はじめに、イサダを加工原料として利用するためには、一般魚類と異なる次の問題点を知っておく必要があります。それは、@著しく鮮度の低下が早い、A内臓に強力な酵素を含み、黒変や自己消化を起こしやすい、B体が非常に小さく、かつ殻が薄いため、積み重ね過ぎると潰れやすい、C肉は吸水性が強く、漁獲後に雨水や海水に接触すると蛋白質が変性しやすい、D生鮮物をそのまま凍結貯蔵しても蛋白質の変性が進行する(下の図)、というものです。

上記@〜Cの問題点に対しては、漁獲直後から蓋付きの容器を用いて20cm以内に積み重ねて保管し、漁獲後8時間以内を目安に加工原料の調整を行った方が良いでしょう。また、加工原料の調整とは、Dの問題があるため、凍結貯蔵前に一度ボイルするか、ミンチにしてソルビットなどの蛋白変性防止剤等を混合するというものです。このように調整した加工原料は、佃煮、漬物、サケハンバーグ、練り製品などの増量材や色上げ材(赤み付け)として利用できます。

なお、上述のような加工原料の調整ができない場合は、2cm厚程度の薄いブロックにして凍結貯蔵し、貯蔵後できるだけ早い時期に、解凍せず大量の沸騰水で一度ボイルしてから利用した方が良いでしょう。例えば、ボイルした後、乾燥したものは、煎餅(下の写真)や菓子類の副材料、焼きそば、お好み焼きの具材としての用途があります。

※蛋白質の変性とは、肉の筋線維を構成する蛋白質が破壊されことである。変性を起こすと、加熱、解凍した際、ドリップが生じやすくなり、味を損ねる要因になる。
1 岩手県沿岸のマナマコ生息量について
増養殖部  武蔵 達也

 岩手県のナマコに関する知見がすくないことからナマコ資源の現状を把握するため、県下13漁協と連携して平成19年6月から8月にかけて、潜水調査を実施しました。調査地点数は延べ76地点(1地点あたり50u又は100uの枠取り)にも及び、そのデータから本県のマナマコの生息量を算出しました。
 その結果は表1に示すとおり県下平均で0.25個/u、41.2g/uのマナマコが生息していること分かりました。
 これを水深11mを基準として、浅場、深場に分けてみると、個体密度は変わらないものの、重量では深場が約2倍重いことから、深場には大型個体が分布する傾向がうかがえました。
 マナマコは、体色でアカナマコ、クロナマコ、アオナマコの3種類に分類され、更にアオナマコは体表面に並ぶ棘「疣足(いぼあし)という」の大きさや数がバリエーションに富んでおり、中国では疣足が大きく、沢山あるものが珍重されると言われてます。
 そこで、アオナマコを写真1のように、疣足の多い個体をAタイプ、少ない個体をBタイプと識別し、色の分類と併せて種組成を調べました。
 その結果、アオナマコが全体の9割以上を占め、更にAタイプが大部分を占め、本県は中国向けに適した品質のものが主体であることが分かりました。
 また、マナマコの生息量と海底地形(底質)との関係をみると、海底が砂や泥のみの場所ではマナマコが出現しませんでした。マナマコは、砂や泥に含まれる有機物を食べることが知られていますが、餌があるだけでなく、付着(ウニ同様管足で移動する)できる岩盤や転石と砂等が混在する場所が生息場所と考えられました。

2 定置網におけるサバ類の漁獲動向について
漁業資源部  田中 大喜

本県の3〜9月における定置網漁業(いわゆる夏網)によるサバ類水揚額は、平成15年以前では2億円前後にとどまっていましたが、20年には13億円(夏網全体の60%)まで増加しており、夏網におけるサバ類の重要度が高まっています。今回はサバ類の漁獲動向を整理し、好漁の要因等について紹介します。
 近年の定置網によるサバ類水揚量は、15年まで5,000トン前後で推移していましたが、16年に18,000トンまで急増し、昨年までの5年間は安定した水揚が続きました(図2)。また、市場調査の体長組成や精密測定等から、本県漁獲物の年齢組成を推定したところ、好漁の要因は15、16、19年生まれがまとまったためと考えられます。特に、18、19年は16年生まれが漁獲の主体でしたが、20年には19年生まれが33%出現しており、漁獲対象の変化が推察されました。全国の水産研究機関による共同調査では、サバ類0歳魚の資源加入は13年以降10億尾前後でしたが、16年に67億尾もの加入が推定されています。その後、再び低い水準となった後、19年には30億尾と推定されています。これら16、19年生まれは卓越年級群※と評価されており、近年のサバ類好漁は加入尾数の多かった卓越年級群等に支えられたと推察できました。
 なお、21年6月までの長期漁海況予報によると、漁獲主体は19年生まれ(今期2歳魚)となり、来遊量はマサバが前年並み、ゴマサバが前年を下回る、サバ類全体としては前年並みと予測されています。
 当センターでは、今後も魚体測定や卵稚仔調査等を継続し、関係機関と連携しながら資源評価や効率的な利用方法を検討していきたいと考えています。

※卓越年級群:他の年に比べて特に多い加入量を持つ年級群(相対的な基準)

図1 本県定置網における魚種別水揚額の推移
(主要6港、39月) 

図2 サバ類の年齢別水揚量
(漁獲年齢を4歳までと仮定)

マサバ
ゴマサバ 測定の様子
 シリーズ 
 
  
岩手の海に現れた珍しい魚
 
     イレズミコンニャクアジ  ―   
 平成19年6月27日に釜石沖合の定置網で採集されました。           

 標準和名:イレズミコンニャクアジ(スズキ目/イレズミコンニャクアジ科)
 学名:Icosteus aenigmaticus
 地方名:特になし
 全長:40 cm

【主な特徴】

(1) 体はだ円形で、体側には濃い紫色の虫食い状の斑紋がある

(2) 頭部は幅広く、丸みをおびているが、腹部と尾部は左右に扁平

(3) 体は鱗がなくて水っぽく、ぶよぶよしている

【その他特記事項】
 イレズミコンニャクアジは北太平洋全域に広く分布していますが、ほとんど人目に触れることはなく、いつ、どこで産卵し、どのように生活しているのかまったくわかっていません。和名のイレズミコンニャクアジは、紫色の模様から連想される入れ墨とこんにゃくのようにブヨブヨな体にちなんでいて、この名前が付けられた当初はアジの仲間だろうと考えられていたことから付けられています。しかし、背骨が軟骨でできており、アジとはまったく似ていないどころか、何の仲間であるかも未だにはっきりしていません。学名Icosteus aenigmaticusは、「20番目」を表すギリシャ語であるEikosiと「謎の」を表すギリシャ語であるainigmatikosから成り立っています。英名ではRagfish(ぼろきれ魚)と呼ばれ、こんにゃくのようなふにゃふにゃな体にちなんでいます。

【ちょっと一言】
 イレズミコンニャクアジは、成長に伴って生活場所を沿岸表層域から水深200m以深の深海域に大きく変えることが知られています。それに伴って、体の形も大きく変わり、今回紹介したような若齢魚では体全体が明るい色で、明瞭な虫食い状の斑紋がありますが、成長すると体全体が細長くなり、虫食い模様が消えて全身が茶褐色となります。さらに、この変化に伴って、幼魚期にあった腹びれがなくなってしまいます。この様な変化は、生活場所の大きな変化と関連性がありそうで、表層近くに住むときは、浮力を得るために腹びれが使われるほか、明るい体色が太陽光に紛れて身を守るのに有効と考えられます。一方、生活場所を深海域に変えると、表層に漂う必要はなくなるために腹びれをなくすとともに、暗い周りの環境にとけ込むのに体色も黒っぽく変化させていると考えられます。こういった変化はメダイなどイボダイの仲間でも見られますが、完全に腹びれがなくなるようなことはなく、この種類が新種として報告された19世紀には成魚と幼魚で種類が異なるとみなされていたほどです。この様に、幼魚から成魚になる際に大きく体の形が変わる魚には、チョウチンアンコウの仲間やシーガルボイス第20号で紹介したミツマタヤリウオの仲間などが知られています。いずれも、深海を生活の場としていて、体が柔らかくなり、水っぽい特徴があります。この様な変化は、光が届かず、高い水圧の中で泳ぎ回るために獲得したものと考えられます。

編集後記 

 今回は、底魚資源、貝毒プランクトン、磯根漁場のモニタリングをご紹介しました。
貝毒と言えば私が小学生であった昭和40年後半の夏、父が知り合いから貰ったホタテを家族で食べた後、私と弟だけ息苦しくなり、病院で「原因は分からないが何らかの食中毒だろう」と診断されたことがありました。今思えば、「麻痺性貝毒」による食中毒だったと思われます。
 現在、流通されているホタテは安全に食べることができます。これも貝毒に関する監視体制のおかげだと感謝しています
 (Y.Y)。