「カモシカ保護管理計画」

1 計画策定の目的及び背景

(1) 計画作成の目的
 ニホンカモシカ(Capricornis crispus。以下「カモシカ」という。)について、科学的・計画的な保護管理を実施することにより、岩手県内に生息する各地域個体群を安定的に維持しつつ、農林業被害の軽減を図り、もって人とカモシカとの共存を実現することを目的として本計画を作成する。

(2) 計画作成の背景
 カモシカは本州、四国、九州に生息する偶蹄目ウシ科ヤギ亜科の動物で、日本の固有種として学術上貴重な種である。
 旧来から狩猟の対象となっていたが、個体数の減少が懸念されるようになり、大正14年の「狩猟法」の改正に伴い狩猟獣から除外され、さらに日本固有種としての学術的価値から、昭和9年には「史蹟名勝天然記念物保存法」により天然記念物に種指定され、その後制定された「文化財保護法」により昭和30年には特別天然記念物に指定された。
 しかし、これらの保護施策と密猟の取締まり強化等により狩猟圧から解放されたことや、戦後の拡大造林の進展による良好な餌場の一時的形成などにより、全国的に地域個体群の回復が進んだ。その結果、幼齢造林木や農作物への食害の問題が顕在化し、農林業の衰退と相まって深刻な社会問題となり現在に至っている。
 このため、昭和54年には環境庁、文化庁、林野庁によるいわゆる三庁合意が交わされ、カモシカの保護と被害防止の両立を図るための方針が示された。

【三庁合意の主な内容】
@ 地域指定の天然記念物への移行  地域を限定した天然記念物に指定し保護する方向で対処することとし、これに至る措置として保護地域を設ける。
A 被害防除目的の捕獲の許可  保護地域以外では被害防除を進めるとともに、必要な場合は個体数調整を認める。

 この三庁合意によって、カモシカについては将来的には地域を定めた天然記念物として保護する方向で対処することとなり、文化庁は順次保護地域を設定している。この保護地域は全国で15箇所が設定されることとされており、本州における13箇所は既に設定されているが、四国及び九州地域の設定がいまだ完了していないため、天然記念物の種指定から地域指定への転換はなされていない【資料1】
 また、カモシカの個体数調整は、保護地域設定が完了した地域においては、環境庁、文化庁、林野庁による協議(三庁協議)を経て保護地域以外の区域で実施することが認められることとなり、これまでに山形県、長野県、岐阜県、静岡県、愛知県で実施されてきている。(ただし、山形県は平成11年から休止中である。)
 本県においても、カモシカの保護対策が講じられた結果、里山周辺のみならず市街地においてもカモシカが出現するほどに個体数の回復が進んでいる。他方で、カモシカによる造林木への食害が他県同様に報告されるようになり、昭和40年代から造林地での被害が顕著になりはじめた。その後、昭和55年前後をピークとして近年は減少傾向にあるものの、依然として相当の被害が発生している状況にある。また、最近では農業被害についても報告されるようになり、人とカモシカとの軋轢が大きな社会問題となってきている。
 こうした中、平成11年6月に「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」が改正され、「保護管理」(Wildlife Management)という概念による特定鳥獣保護管理計画の制度が創設されたことから、個体数管理を含む総合的な対策を推進するため、「特定鳥獣保護管理計画」を作成するものである。

2 対象鳥獣

(1) 対象鳥獣
 本県に生息する野生のカモシカとする。

(2) カモシカの生態的特徴
 カモシカの体重は成獣でおよそ30〜40sであり、ニホンジカ(以下「シカ」という。)よりやや小型である。全身は長い体毛に覆われ、体毛の色は灰色、白色、黒色、灰褐色など様々な変異がある。四肢は太く短く、山岳地の急峻な地形で生活するのに適した体型となっている。カモシカの角はシカのそれとは異なり、真性角(皮膚の爪が変化したもので終生生え替わらない。)であり、オスもメスも同様の角を持つ。
 植生との関係で見ると、生息分布はおおよそブナ・ミズナラ林の分布と一致しており、シカが低山帯・里山の動物であるのに対して、カモシカは基本的には低山帯上部から亜高山帯に分布する森林性の動物である。ただし、本県では、急峻な海岸線から亜高山帯までの広い範囲で分布が確認されている。多種多様な植物を食するが、一定の範囲を移動しながら嗜好性の高い植物を選択的に採餌する傾向がある。
 カモシカは1頭1頭が単独で生活する社会構造を持つ。群ができることは稀で、子連れや繁殖期のペアなどが見られる程度である。また、1頭ずつ一定の場所に定着して、同一行動圏を維持し、他の個体が侵入しようとすると攻撃して排除することから、いわゆる「なわばり」を持つ動物であると言える。このなわばりは、生息地の状況によって異なるが、概ね10〜50ha前後であり、一般にメスよりもオスのなわばりの方が大きい。

3 計画の期間
 平成16年12月1日から平成19年3月31日までとする。
 上位計画である第9次鳥獣保護事業計画に終期を合わせるものだが、計画の期間内であっても、生息状況及び社会状況に大きな変化が生じた場合には、必要に応じて計画変更の検討を行うこととする。

4 対象地域

(1) 対象地域
 岩手県全域とする。ただし、国指定鳥獣保護区(日出島、三貫島)の地域を除く。

(2) 地域個体群の区分
 環境省の提案する地域個体群の区分によれば、本県のカモシカ地域個体群は、「十和田」、「阿仁・八幡平」、「真昼山脈」、「栗駒」、「北上」の5つに区分されている。この区分は、山塊を基礎として分布の連続性と分布が縮小していた時期の分断状況をもとに区分したものとされているが、必ずしも生物学的に明確な根拠があるわけではない。
 他方、県内におけるカモシカの生息は、現在では県内のほぼ全域にわたって分布が確認されており、このように5つの地域個体群に細分化して捉えることは、必ずしも合理的ではないとも考えられる。
 このため、本計画では、便宜的に、カモシカにとって大きな移動障害になっていると考えられる馬渕川(平糠川)及び北上川をもって地域個体群の境界とし、以東を「北上高地地域個体群」、以西を「奥羽山系地域個体群」と区分することとする【資料2】
 なお、この地域個体群の区分は、あくまで暫定的なものであり、遺伝的な特徴などの今後の科学的な知見の積み重ねにより、必要に応じて見直すこととする。

5 カモシカに関する現状

(1) 生息環境

@ 森林の状況
 本県の総土地面積1,527,853haのうち、その77.3%に当たる1,180,529haが森林であり、北海道に次いで広い森林面積を有している。このうち42.7%をスギやアカマツなどの人工林が占めている。(平成14年度末現在)
 この背景としては、昭和44年度の14,469haをピークとして進められた拡大造林の推進があり、天然林の多くがスギなどの針葉樹林へ転換されてきたことが挙げられる。
 このような人工林への転換に伴い、カモシカの生息適地である落葉広葉樹林地が減少したが、一方では、造林のための伐採跡地には早期に草本類や低木が生育するため、カモシカの格好の採餌場所ともなっている。
 なお、近年は、造林面積は減少傾向にあり、民有林における造林面積は平成14年度で907haに止まっている。また、管理の不十分な森林が随所に見受けられる。

 森林の現況

総土地面積(ha) 森林面積(ha) 森林率(%) 林種別
天然林等(ha) 人工林(ha) 人工林率(%)
1,527,853 1,180,529 77.3 676,438 504,091 42.7

A カモシカ保護地域
 本県における三庁合意に基づくカモシカ保護地域は、昭和57年7月に北上山地カモシカ保護地域が、昭和59年2月に北奥羽山系カモシカ保護地域が、昭和59年11月に南奥羽山系カモシカ保護地域がそれぞれ設定されている【資料3】

 カモシカ保護地域設定状況

保護地域 関係県 設定年月日 面積(km2) うち岩手県分(km2) 関係市町村 面積(km2) 備考
北上山地 岩手県 昭和57年7月 411.68 411.68 盛岡市
玉山村
岩泉町
川井村
大迫町
遠野市
93.82
72.24
79.26
115.84
18.72
31.80
国有林+民有林
国有林+民有林
国有林+民有林
国有林+民有林
国有林
国有林
北奥羽山系 青森県
岩手県
秋田県
昭和59年2月 1,043.11 213.87 安代町
西根町
松尾村
滝沢村
雫石町
40.76
4.80
79.57
5.97
82.77
国有林
国有林
国有林
国有林
国有林
南奥羽山系 岩手県
宮城県
秋田県
山形県
昭和59年11月 580.20 12.29 一関市 12.29 国有林


(2) 生息状況

@ 生息分布
 平成12年度自然環境保全基礎調査等によるカモシカの生息分布は、【資料4】のとおりである。この調査結果では、地域によって濃淡はあるものの、県内のほぼ全域にわたりカモシカの生息が確認されている。
 なお、昭和53年度の同調査結果と今回の調査結果を比較すると、県南地域において生息域が拡大していることが確認できる【資料5】

A 生息密度
 平成15年度の調査結果では、生息密度は平均2.76頭/km2となっており、全国調査による平均値2.63頭/km2(環境庁,1986)に近い値となっている。
 ただし、今回の調査は、カモシカの被害状況や目撃情報から個体を発見する可能性が高いと思われる地区を抽出して行った調査であり、調査範囲も主に五葉山周辺の市町村を中心としたものであることから、必ずしも岩手県全域における生息密度を表しているものではないことに留意する必要がある。

 生息密度

市町村 調査箇所数 面積(km2) 発見頭数 平均密度(頭/km2)
盛岡市 2 2.304 3 1.30
大船渡市 4 1.316 2 1.52
陸前高田市 4 1.582 7 4.42
住田町 4 2.408 5 2.08
遠野市 4 2.015 11 5.46
釜石市 4 2.329 4 1.72
大槌町 4 1.827 6 3.28
全体 26 13.781 38 2.76

 なお、調査方法等が異なるため一律に比較できないが、県教育委員会によるカモシカ保護地域特別調査の結果は、下記のとおりとなっている。

 カモシカ保護地域における生息密度

保護地域 平均密度(頭/km2) 備考
北上山地 0.40 平成10・11年度 (財)自然環境研究センター
北奥羽山系 0.81 平成14・15年度 (財)自然環境研究センター
南奥羽山系 0.86 平成8・9年度 (財)自然環境研究センター


(3) 被害状況

@ 林業被害
 カモシカによる林業被害は、造林木の芽や葉を食べるという食害であり、主にスギ、アカマツ、カラマツなどで発生している。
 県内における林業被害については昭和49年以降の記録が残っているが、実損面積で見ると、昭和54年の694.73haをピークに、その後は減少傾向にある【資料6】。これは、新植造林面積の縮小に伴い食害を受けやすい幼齢林(T・U齢級林、10年生以下の幼木)が減少していることも原因の一つであると考えられる。なお、平成15年における実損面積は、17.97haとなっている。
 過去5年間における林業被害発生市町村は、【資料7】のとおりである。

A 農業被害
 カモシカによる農業被害は、水稲、豆類、野菜、果樹、飼料作物などの食害である。
 県内における農業被害については、平成9年以降の記録が残っており、従来は年変動はあるもののおおむね20ha前後で推移していたが、平成14年以降は増加傾向を見せている【資料8】。なお、平成15年における被害面積は、67.5haとなっている。
 過去5年間における農業被害発生市町村は、【資料9】のとおりである。

(4) 被害防除状況
 県内で実施されている被害防除対策は、忌避剤の散布・塗布及び防護柵の設置を中心に行われている。
 これらの被害防除対策については、カモシカ保護地域を含む市町村を対象とした文化庁の国庫補助事業と、その他の市町村を対象とした県教育委員会の補助事業があり、平成15年度では、忌避剤については8市町村で計266.91haの規模で実施され、防護柵については2市町で計1,850mが設置されている。この他、忌避剤については補助事業によらない自力での取組みも行われている。
 補助事業による過去5年間の取組み状況は、【資料10】のとおりである。

6 保護管理の目標

(1) 保護管理の基本目標
 カモシカは森林生態系の重要な構成要素であり、学術的な価値の高い種として特別天然記念物に指定されていることを踏まえ、保護管理の基本目標は次の2点とする。

@ 遺伝的多様性を含む地域個体群の安定的な維持を保証する。
 ア 地域個体群の状況について、生息分布状況と生息密度を基準としたモニタリングを行い、地域個体群の安定的な維持を図る。
 イ 地域個体群の安定的な維持を図るため、隣接県と連携を図りつつ保護管理を進める。

A 農林業に対する食害を軽減する。
 地域個体群を安定的に維持するという前提から、被害を完全に防止することは極めて困難であるため、個体数調整も含む防除対策の費用対効果を考慮しつつ、地域の実情に応じた許容範囲あるいは受忍限度まで被害の軽減を図ることとする。

(2) 地域個体群ごとの保護管理の目標
 本県のカモシカ地域個体群については、本計画では「北上高地」と「奥羽山系」に区分したが、それぞれの地域について、個別の保護管理目標を設定しなければならないほどの大きな差異も見られないため、当面は地域個体群ごとの個別の保護管理目標は設けず、(1)を共通の目標として保護管理を進めることとする。

(3) 目標を達成するための施策の基本的な考え方
 カモシカは種指定の特別天然記念物であることに鑑み、保護管理施策としては、防護柵や忌避剤等による通常の被害防除対策(個体数調整を除く。以下「通常の被害防除対策」という。)と生息環境管理対策の充実により被害を効果的に防除することを基本とする。
 しかし、これらの防除対策を講じても、被害発生地の立地条件等によっては被害が軽減しない場合もある。このような、真にやむを得ない場合に限り個体数調整による防除を認めることとする。ただし、個体数調整を実施する場合においても、カモシカはシカと比べて捕獲圧に対して脆弱であることに配慮する必要がある。
 また、個体数調整による防除を行ったとしても、被害発生の要因が除去されない限り新たな個体が侵入し被害発生が継続する可能性もある。したがって、個体数調整による被害防除を行う場合でも、通常の被害防除対策と生息環境管理の実施が重要であることに留意しなければならない。
 以上の被害防除対策の概念図を【資料11】に示す。

7 保護管理の実施

(1) 保護管理のための地域区分
 カモシカ地域個体群の安定的な維持を確保しつつ、農林業被害の軽減を図るため、保護管理のためのゾーニングを行う。

地域区分 位置付け 区  域
保護地域 地域個体群存続のための保護の中心領域で、原則として自然の推移に委ねる地域 三庁合意に基づくカモシカ保護地域 
・北上山地カモシカ保護地域 
・北奥羽山系カモシカ保護地域 
・南奥羽山系カモシカ保護地域
管理地域 管理地域 人とカモシカとの共存に資するため、通常の被害防除対策に取り組む地域 保護地域以外の全ての地域
重点管理
地域
農林業被害対策として個体数調整による防除に取り組むことを認める地域 管理地域のうち、カモシカ保護管理実施計画に定める個体数調整実施区域

(2) 通常の被害防除対策
 通常の被害防除対策は、被害を未然に防止するための基本的な施策であり、市町村が主体となって積極的に取り組むこととする。
 なお、通常の被害防除対策にはいくつかの方法があるが、いずれも一長一短があるため、防除対象地域の地形や気象条件などに応じた方法を選択することとする。
 また、特定の場所のみの実施は周辺地域の被害を招く恐れもあることから、近接する地域で合同実施することが望ましい。

@ 物理的防除
 【防護柵】
 被害防除の対象となる造林地や農耕地を金網や合成樹脂ネットなどの柵で囲い、カモシカの侵入を阻止する方法である。
 防除効果の確実性は高く、長期間にわたる効果が期待できる。しかし、設置コストが高く、大面積の防除対象地で実施しないと単位コストが一層高くなるため、費用対効果を考えると小規模な個人の造林地における実施は困難な面もある。
 また、風雪などにより柵の一部でも損壊すると、そこからカモシカが侵入してしまうため、常に見回り等を行い、必要であればすぐに補修するなどメンテナンスが重要である。
 【食害防止チューブ】
 造林地で行われる防除方法で、幼齢木を一本毎にチューブで覆い、カモシカの食害を防除するものである。
 適切に施工すれば防除効果は高いが、植栽木が夏場に蒸れたり、雪によって折れたりすることがあるため、十分に注意が必要である。

A 化学的防除
 【忌避剤】
 かつてはジラム水和剤も使用されていたが、最近では主にイソプロチオラン水和剤やチウラム塗布剤が使用されている。
 こうした忌避剤は、食害の対象となる幼齢木の葉などに散布または塗布し、これを食べたカモシカに味覚刺激を与え、食欲減退効果による食害防除を図るものである。
 食害は通年で発生することもあるが、発生の集中する時期が限定されることが多く、食害発生時期を予測し直前に実施することが効果的である。
 有効期間は3〜6ヶ月程度であり、長期間の忌避効果を期待することはできない。

(3) 生息環境管理
 カモシカの地域個体群を安定的に維持するためには、生息の核となる地域の確保が必要である。県内においても、三庁合意に基づくカモシカ保護地域が設定されているが、これらの保護地域は、県境付近や県中央地域に偏在している。
 このため、自然公園制度や国有林の「緑の回廊」等の各種施策との連携を図りながら、カモシカの生息環境保全に努めることとする。
 また、人工林の適切な管理に努めるとともに、落葉広葉樹林及びそれに準じた森林を確保できるよう地域の実情に応じた生息環境の保全・管理に努めることとする。
 なお、これらの生息環境管理の推進にあたっては、農林担当部局や文化財担当部局と十分に連携を図ることとする。

(4) 個体数調整による防除
 カモシカは、なわばり性の社会構造を持ち、定着性であるため、被害を起こしている個体をある程度特定することができる。また、カモシカによる被害は、幼齢木の食害と、森林に隣接した耕作地における農作物の食害であることから、被害が発生している場所又はその可能性のある場所を、かなりの程度予測し、特定することが可能である。
 他方で、生息密度が全体として低い状態でも、被害対象となるものがある場所になわばりを持つ個体がいる場合には、被害が発生しうる。
 以上のことから、カモシカの個体数調整は、個体数をどこまで減らすかという個体数管理や、生息密度をどこまで抑えるかという密度管理ではなく、個体群が維持される範囲内で、加害個体又はその可能性が高い個体を選択的に排除するという個体管理を基本とする。

【参考】カモシカの特徴
・ 生息密度の上限が低いため、シカと比較して自然植生に対して強い影響は与えない。
・ 定着性が強くなわばりを持つため、被害を起こしている個体がある程度特定される。
・ 生息密度が低くても、被害を受ける可能性がある対象が存在する場所になわばりを持つ個体がいれば、被害は発生する。
・ 雌雄に外見的な違いがほとんどないため、選択的捕獲ができない。
・ 定着性であり増加率が低いため、シカと比較して捕獲圧に対して脆弱である。
・ 現在は非狩猟獣であり、狩猟資源としての要求も少ない。
・ 林業被害は幼齢木が対象であり、樹高が1.5〜2.0mを超えればほとんど発生しないことから、おおむねT・U齢級(10年生以下)の造林地に限られる。
・ 生息地が森林であるため、農業被害地は、通常、森林に隣接した場所に限られる。

@ 個体数調整実施区域の設定
 農林業被害対策として個体数調整による防除を行う場合は、各市町村においてカモシカ保護管理実施計画(以下「実施計画」という。)を作成し、その計画の中で個体数調整実施区域を設定し、当該区域内で捕獲を行うこととする。

A 実施計画における個体数調整計画の作成手順
 市町村において実施計画を作成する場合には、次の手順に従って作成することとする。
 ア 林業被害の場合
 a 被害地区等の図化
  下記の情報を示した図(縮尺1/25000程度)を作成する。
  ○ T・U齢級の造林地
  ○ 被害発生造林地
  ○ 通常の被害防除対策の実施林分及び実施予定林分
 b 被害状況の把握
  巡視業務(造林検査、下刈り検査を含む。)の際の調査や聞き取り調査により、被害状況を把握する。
 c 個体数調整実施区域の設定
  被害発生林分及び被害の可能性のある林分の配置や地形等を考慮して、50〜100ha程度の区域を設定する。
  100ha以上の個体数調整実施区域は原則として設定しないが、被害林分の分布状況によっては、隣接して設定することは妨げない。
  個体数調整実施区域は、捕獲が必要でかつ効果的であると認められる場所に設定することとし、他の防除手段が採られている場所には、むやみに設定しない。
 d 捕獲数の設定
  各個体数調整実施区域における年間捕獲数は、それぞれの区域ごとに原則として1〜4頭の間で設定する。
  捕獲数の設定は、モニタリングの結果や、捕獲又は被害の状況等により、被害を起こしている又は起こす可能性のある個体を推定することによって行う。
 イ 農業被害の場合
 a 被害地区等の図化
  下記の情報を示した図(縮尺1/25000程度)を作成する。
  ○ 被害を受けている地区の耕作地全体と被害発生耕作地
  ○ 防護柵の設置状況及び設置予定箇所
 b 被害状況の把握
  現地調査又は聞き取り若しくはアンケート調査により、被害の発生場所、時期、対象作物、被害の程度等について記録する。
 c 個体数調整実施区域の設定
  対象地域を集落又は字単位で区分したうえで、地形等を考慮し、被害発生耕作地の後背地にある森林について、加害個体が生息していると考えられるおおむね500m以内の奥行きを囲み、当該被害発生耕作地を含めて個体数調整実施区域を設定する。
  100ha以上の個体数調整実施区域は原則として設定しないが、被害発生耕作地の分布状況によっては、隣接して設定することは妨げない。
  個体数調整実施区域は、捕獲が必要でかつ効果的であると認められる場所に設定することとし、他の防除手段が採られている場所には、むやみに設定しない。
 d 捕獲数の設定
  各地域の生息密度を考慮し、各個体数調整実施区域の年間捕獲数は原則として1〜4頭の間で設定する。

B 実施計画の承認
 実施計画を作成した市町村は、県に計画を提出してその承認を受けることとする。
 県においては、市町村ごとの実施計画を基に、県全体の実施計画を作成し、カモシカ保護管理検討委員会での検討を経て、市町村ごとの捕獲頭数を決定することとする。
 なお、個体数調整実施区域の数と計画捕獲数は被害状況やモニタリング等により毎年見直すこととする。

C 個体数調整実施に係る許可申請
 個体数調整を実施するためには、事前に、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律に基づく鳥獣捕獲等許可と、文化財保護法に基づく現状変更許可を得る必要がある。
 このため、個体数調整を実施する市町村は、鳥獣捕獲等許可については所管の地方振興局保健福祉環境部に許可申請するとともに、現状変更許可については市町村教育委員会及び県教育委員会を経由のうえ文化庁に許可申請するものとする。

(5) モニタリング等の調査研究
 保護管理計画の不確実性を補い、科学的・計画的な保護管理施策を推進するため、生息状況や被害状況などについてモニタリングを行い、その結果を保護管理計画にフィードバックすることとする。

@ 役割分担
 県は保護管理計画の作成と市町村が作成する実施計画の取りまとめを、市町村は実施計画の作成と被害防除対策の実施をそれぞれ行う立場であり、各々の役割分担に応じた調査項目についてモニタリングを実施し、その結果を計画に反映させることとする。
 ア 県が行うモニタリング
 a 全県的な生息動向(生息分布、生息密度)
 b 全県的な被害動向
 c 捕獲個体の分析
 イ 市町村が行うモニタリング
 a 個体数調整実施区域における生息状況及び被害状況
 b 捕獲に関する記録
 c 捕獲個体の試料収集

A モニタリングの調査頻度
 モニタリングは、その目的や内容に応じて調査頻度が異なり、長期的なモニタリング項目と短期的なモニタリング項目とに分けることができる。
 全県的な生息動向については、長期的なスパンでの動向を把握し、保護管理計画に反映させようとするものであることから、おおむね5年毎に実施することとする。同様に、全県的な被害動向についても、調査自体は毎年行うものの、その動向分析については、おおむね5年毎に実施することとする。
 他方、個体数調整実施区域におけるモニタリングについては、その調査結果が各年度における個体数調整の実施にフィードバックされるべき内容であるため、毎年実施することとする。

B モニタリングの内容
 ア 県が行うモニタリング
 a 全県的な生息動向
 【生息分布】
 アンケート調査や聞き取り等により分布域を調査する。
 【生息密度】
 区画法による追い出し調査により、生息密度を推計する。
 b 全県的な被害動向
  農林担当部局で実施している被害調査資料を整理し、被害の動向を把握する。
 c 捕獲個体の分析
  市町村において捕獲個体から収集した試料を基に、性別、年齢、胃内容、メス個体の妊娠率等を調査する。
 イ 市町村が行うモニタリング
 a 個体数調整実施区域における生息状況及び被害状況
  個体数調整実施区域において、捕獲による被害防除効果を判定するため、捕獲実施前と捕獲実施後における生息状況及び被害状況をそれぞれ調査する。
 b 捕獲の記録
  捕獲のための出動記録(出動年月日、出動者数、出動時の目撃頭数、捕獲頭数など)、捕獲個体の計測(体長、体重、性別、推定年齢など)及び捕獲位置図を整理する。
 c 捕獲個体の試料収集
  捕獲した個体から、角、胃、生殖器などの試料を収集する。

C その他
 上記のほか、保護管理施策を推進するうえで、新たにモニタリングを実施することが必要となる事項が生じた場合には、調査実施主体、調査方法、調査頻度などを検討し、可能な範囲でモニタリング調査を行うこととする。

(6) 保護管理の推進に係る今後の課題

@ 被害把握方法
 カモシカ被害とシカ被害を見分けることは難しく、カモシカ被害の調査を行う際にどのような方法でシカ被害と区分けするかが一つの課題となっている。このため、今後とも、被害把握方法に係る最先端の知見を常にフォローしつつ、その普及啓発に努めることとする。

A 地域個体群維持の指標
 カモシカの個体数調整については、生息数管理や密度管理という手法ではなく、加害個体を選択的に排除するという個体管理を基本としているが、個体数調整を実施していった場合には、結果として生息数や生息密度が減少することになる。したがって、地域個体群維持のための生息数又は生息密度に係る指標を設定する必要があるが、現在のところ、これらの指標に係る科学的な知見は十分には得られていない。このため、今後は、これらの指標に係る最新の研究成果をフォローしつつ、適切な指標の設定を模索していくこととする。

8 計画の実施体制及び普及啓発
 保護管理計画の目的を達成するため、県及び市町村は、関係機関及び地域住民の理解と協力の下に、各種施策の実施に取り組むこととする。

(1) 各機関の果たす役割

@ 県
 県は、保護管理計画の作成及び見直しを行うとともに、個体数調整を実施する市町村が作成する実施計画に基づき、県全体の実施計画を作成する。
 また、保護管理施策の適切な実施に資するため、県内部においては鳥獣担当部局が中心となり、農林担当部局及び文化財担当部局との調整を行うとともに、個体数調整を実施する市町村等に対して必要な助言を行う。
 なお、保護管理計画の作成及び見直しを行うに当たっては、環境保健研究センターとの連携を図りつつ、保護管理に必要なモニタリング調査を行うとともに、カモシカ保護管理検討委員会から必要な助言を受けることとする。

A 市町村
 市町村は被害防除対策の実施主体であり、各種の防除対策を実施する。
 また、個体数調整を実施する市町村は、保護管理計画の内容に沿った実施計画を作成し、地区猟友会との連携の下に、適切かつ効果的な捕獲に努める。
 実施計画の作成及び見直しに当たっては、被害状況や個体数調整の効果等の必要なモニタリング調査を行うとともに、県が行うモニタリング調査に対して協力することとする。

B カモシカ保護管理検討委員会
 学識経験者及び関係団体等で構成するカモシカ保護管理検討委員会を設置し、保護管理計画及び実施計画の作成及び見直しを行うに当たり、必要な検討及び助言を行う。
 また、県及び市町村が行うモニタリング調査結果の評価・分析を行う。

(2) 普及啓発
 各種保護管理施策の実施について地域住民の理解を得るため、本計画の目的及び内容について各種広報媒体を活用して普及啓発に努めることとする。

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