V−3−2
海洋哺乳類のインフルエンザウィルス感染のモニタリング
カスピ海アザラシにおけるインフルエンザウィルス抗体の検出
大石 和恵 (東京大学海洋研究所)
最近、海洋哺乳類の大量死やストランデイングの報告が相次いでいる。感染症は大量死を引き起こす主要な原因の1つであり、野生動物の保護という観点からだけでなく公衆衛生の観点からも極めて重要な問題である。インフルエンザウイルスはオルソミクソウイルス科に属するウイルスで、A型とB型ウイルスはヒトにおいて大規模な流行を引き起こす。A型インフルエンザウイルスは多くの鳥類や哺乳類に感染し、1979-80年には米国マサチューセッツ州にておよそ600頭のアザラシの大量死を引き起こした。一方、B型ウイルスは従来ヒトだけの病気と考えられていたが、最近、アザラシへの感染が報告された。インフルエンザウイルス感染のモニタリングのために、血清中の特異的抗体を検出するシステムを構築し、カスピカイアザラシにおいて血清疫学調査を行った。
サンプリングはカスピ海の北西に位置するパールアイランドで、ロシア政府の許可を得て行った。1993, 1997, 1998, 2000年に捕獲した13, 7, 15, 42個体のアザラシ血清を酵素免疫法(ELISA法)によって調べたところ、54, 57, 40, 26%で抗インフルエンザA型ウイルス抗体が検出された。血清の亜型を調べるためにH1-H15の亜型を有する標準ウイルスを用いて赤血球凝集阻止(HI)試験を行ったところ、A/Aichi/2/68(H3N2)株と反応した。さらに、株特異性を調べるためにヒトのH3N2の変異株および他の動物由来のH3 を有するウイルス株を抗原としてHI 試験を行った。アザラシ陽性血清はA/Bangkok/1/79(H3N2)株と強く反応し、カスピカイアザラシがこのウイルス株に感染したことが示唆された。また、陽性アザラシの年齢構成から、このウイルスは少なくとも1993年頃まで集団に存在していたことが示唆された。抗インフルエンザB型ウイルス抗体は、1997の14%、2000年の10%の血清で検出された。2000年で陽性を示した4頭のうち3頭は1才未満であることから、B型ウイルスは比較的最近、この集団に侵入したと考えられた。本研究はアザラシがヒト由来のインフルエンザウイルスを保有できることを示唆している。
(本研究は、海洋バイオテクノロジー研究所、北海道大学獣医学部、鴨川シーワールドならびにロシア研究機関との共同研究である。)
ヒト由来のインフルエンザA型およびB型ウイルスのカスピカイアザラシへの伝播を示す血清疫学調査
カスピカイアザラシのインフルエンザウイルスの血清疫学調査を行った。1993, 97, 98, 2000年に捕獲したアザラシ血清の54, 57, 40, 26%で抗インフルエンザA型ウイルス抗体がELISA法により検出された。血清の亜型を調べるためにH1-H15の亜型の標準ウイルスを用いて赤血球凝集阻止(HI)試験を行ったところ、A/Aichi/2/68(H3N2)株と反応した。さらに、株特異性を調べるためにヒトおよび他の動物由来のH3 を有するウイルス株を用いてHI 試験を行った。アザラシ陽性血清はA/Bangkok/1/79(H3N2)株と強く反応し、カスピカイアザラシがこのウイルス株に感染したことが示唆された。抗インフルエンザB型ウイルス抗体は、1997の14%、2000年の10%の血清で検出された。本研究はアザラシがヒト由来のインフルエンザウイルスを保有できることを示唆している。